「子どもだから分からなくていい」は間違いだ――やなせたかしが貫いた美術館のあり方(2/5 ページ)
アンパンマンを中心とした作品を複数展示しているやなせたかし記念館は約30年間進化を続けている。そこに息づく“やなせイズム”とは?
作品の詳細な解説をしないワケ
同館が運営方針として大切にしているのは、あらゆる層が来場しやすい間口の広さだ。
「これはやなせ館長のご意向ですが、私たちも『アンパンマンミュージアムはローブロー(サブカルチャー的な要素を持つ、伝統的な美術のルールに縛られない表現方法を指す)で良い』と考えています。特に昔は、美術館や博物館とは少しおしゃれをしたり、かしこまったりして行くところでした。でも、やなせ館長は大衆の日常にある芸術を作りたいと考えていた方です。皆さんが日常的に見る絵本や雑誌は大金をかけて買うものではないですよね」
そのため、アンパンマンミュージアムは幅広い層の来場者を歓迎している。
「ここにはさまざまな方が来場されます。美術館に日常的に訪れる習慣があるようなご家族だけではなく、アニメのアンパンマンが好きだから行ってみようという方々も多いです。美術館ではありますが、大衆的な興味・関心で来ていただいて、もちろん構いません。むしろ、そうした方々が入りづらいような施設にするのは違うと思っています。誰もが楽しんでもらえる場所にしたいのです」
この方針により、同館では意図的に作品の詳細な解説を控えている。その理由について、仙波さんはこう続ける。
「多くの美術館や博物館には、最初に作者の年表が掲げられています。そして、各作品には読み物のような長さの文章がついており、この作品がいかにすごいのかを主張しているようなものもあります。美術館に慣れていらっしゃる方であれば良いのですが、興味がない方は恐らくそこで引いてしまいます。文字をたくさん読まないといけず、難しいから外に出たくなってしまう」
そうならないために、同館では解説などを極力避け、来場者の心理的ハードルを下げている。「最初は、『どういう意図の作品なのかは分からないけど、この絵はすごく美しいし、かわいいからポストカードを買って帰ろう』と感じていただけるだけで良いと思っています」と仙波さんは強調する。
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