「子どもだから分からなくていい」は間違いだ――やなせたかしが貫いた美術館のあり方(4/5 ページ)
アンパンマンを中心とした作品を複数展示しているやなせたかし記念館は約30年間進化を続けている。そこに息づく“やなせイズム”とは?
1つの仕事に対し、3倍で返してくれた
やなせたかし記念館の運営の思想を理解するには、やなせ氏の人間性と仕事観を知ることが重要だ。仙波さんは約10年間にわたってやなせ氏と仕事を共にした経験を持つ。
「スタッフと館長という関係で接する部分が多かったので、やなせ館長プライベートがどうだったのかは正直分かりません。ただ、お会いした時はすでに80代でしたが、仕事に取り組む姿勢が素晴らしいと感じたのを覚えています」
やなせ氏は長年にわたって世間に認められない不遇の時代を過ごした経験から、仕事に対する意識は並々ならぬものだったという。その仕事ぶりについて、仙波さんは具体的なエピソードを交えて語る。
「仕事が来た時の返答の速さに加えて、1つの仕事に対して3倍で返す、つまり複数のパターンを納品することで先方に選択肢を与えていました。その姿勢がすごいと感じました」
例えば、新たな展覧会を開くため館長の挨拶文がほしいと依頼したところ、その日の夕方には原稿が届き、スタッフが準備する時間を確保してくれることもよくありました。
「本当に仕事の早い方で、こちらから催促をしたことは一度もありません。プロとして第一線で、しかも締め切りがある仕事を何十年もしていた方のため、それによって信頼を勝ち得て、最晩年の成功にもつながったのだろうと実感しました」
一方で、人柄については「本当に気さくな館長で、私たちとお話しする時にこちらを緊張させるようなことはありませんでした」と仙波さんは目を細める。
やなせ氏は流行にも敏感だったようで、新しいファッションを取り入れたり、iPadやロボット掃除機なども真っ先に試していたりしたそうだ。これは単なる好奇心ではなく、職業意識に基づくものだったと仙波さんは分析する。
「やなせ館長の場合、注文を受けて作品を書く作家です。いわゆるファインアートの、自分の思いだけを芸術作品として見せる作家ではないので、周囲がどのような反応があるのかという視点を常に持っていたのではないかと感じます。もちろん、ご自身がファッションなどをお好きだったこともありますが、TPOに応じて服装を変え、お客さまが喜んでくださっているのか、その反応を見ることなどに興味があったと思います」
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