「トップの不正」にどう対応したのか 国産ドローン企業が実行した“情報戦”:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
国産ドローンメーカーとして注目される企業、ACSLで不祥事が発生。同社が活用したのが、企業インテリジェンスだ。徹底的な調査と迅速な対応により、ダメージを最小限に抑えた。情報を分析して活用する「インテリジェンス」がビジネスに不可欠になりつつある。
事件の調査に「企業インテリジェンス」を活用
問題の発端は、ACSLの幹部が2025年2〜3月、当時代表取締役を務めていた鷲谷聡之氏がカネに困っている、といううわさを社内外で耳にしたことだった。
ここで同社は重要な判断を行う。内部でひそかに調査するのではなく、企業インテリジェンスを提供するクロール(Kroll)に調査を依頼した。
同社は以前もこの連載で紹介したが、独自のデータベースに加え、法執行機関や警察、弁護士、メディアなど、国内外の専門家と連携している。また、企業に精通した情報源から「ヒューミント(人的情報)」による調査も行い、日本では類を見ない企業インテリジェンスを提供している米国発の企業だ。
同社が作成した報告書には、調査方法の詳細は記載されていないが、内容を見ていくと、おそらく、元従業員や競合企業、取引先関係者などにも実際にアプローチして調査したはずだ。
米国の企業であるクロールは、世界30カ国で同様の活動ができるネットワークも有しているため、広い視野で企業インテリジェンスを提供できる。
本件でクロールは、鷲谷氏が使っていたメールなどを分析するフォレンジック調査も行った。すると、調査が進んでいる段階で鷲谷氏は代表取締役を辞任した。
調査報告書によれば、鷲谷氏は当時の妻との離婚に向けた財産分与や慰謝料、子どもの養育費などとして総額1億円以上の支払い義務を負った。この資金を確保するため、保有するACSLの株式を売却するとともに、ファンドへの出資を行うなどした結果、自己資産がなくなっていった。そのため2025年からACSLの名義で架空契約を締結して、その対価を不正に取得していたという。
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