バフェットは否定的? 株式分割が抱える「見えないコスト」(3/3 ページ)
株式分割を通じて個人投資家を呼び込もうとする企業が増えている。しかし、投資信託やETFの普及、実務コストの増加などにより、その意義は揺らぎ始めている。
「株主数拡大」の限界
株式分割の目的として「株主層の拡大」がしばしば挙げられるが、この点にも見直しの余地がある。
投資信託を通じて株式を保有する場合、実際には多数の個人投資家が資金を出していても、名簿上は運用機関が1人の株主として記載されるにすぎない。つまり、名簿上の「株主数」と実際の投資家層の広がりとの間にはギャップが存在する。
上場維持基準に定められている「株主数」や「流通株式比率」といった定量要件は、制度設計当初に想定されていた投資行動を前提としており、現在のように投資信託経由での保有が増えると、その実態を十分に反映できない可能性がある。
企業価値向上を本質的に捉えるのであれば、形式的な株主数の増加にとらわれるのではなく、投資家の中身――つまり長期的な視点を持ち、企業経営に理解を示す株主をいかに増やすかが問われるべきではないか。
制度と文化のアップデートを
今回、ニトリが実施を決めた株式分割は、1株を5株にするという大きな比率である一方、株主優待や配当の基準は据え置きとされている。これは、表面的には個人投資家への門戸を開くように見せながら、実質的には既存の株主構造を維持する意図があるとも読める。
東京証券取引所はかつて、株価5万円未満を「望ましい」とするガイドラインを設けていた。これは「100株単位で投資するには、あまりに高額な株価は避けるべき」との配慮からであった。
しかし、投資手段がここまで多様化し、IT技術の進展によって1株単位の取引も技術的には可能になった今、株価を分割して“買いやすくする”という発想そのものが陳腐化しつつあるのではないか。
今後は、ETFや投資信託の利用拡大を前提とした新たな市場設計やガバナンスのあり方が求められる。東証もまた、企業の形式的な分割に過度な期待を抱かせるのではなく、実質的な企業価値を問う視点への転換を後押しすべきタイミングにあるといえよう。
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