「失敗したデータこそ宝」 AI面接官に全社向けAIツール、キリンHDが気付いた全社DXの真髄(4/4 ページ)
AI面接官に全社向けAIツールと、全社でDXを推進するキリンホールディングス。さまざまな取り組みから同社が学んだ、全社DXの真髄とは?
デジタル化の先にある「人にしかできない価値」
BuddyAIがこれほど高い利用率を達成できた背景には、綿密に設計された導入戦略があった。「まず経営層から、AI活用が今後必須になるという強いメッセージを繰り返し発信。部長職以上には、東京大学のAI講座の一部を受講必須とし、中期的な事業戦略を考える上でAIが不可欠であるという危機感を共有しました」(後藤氏)。5月のリリース時には、2週間の啓蒙週間を設定。毎日全社向けにメルマガを配信し、AI活用のストーリーと具体的な使い方を紹介した。
福井氏は、現場での浸透について次のように振り返る。「大切なのは、まずは一度体感してもらうこと。実際に使ってみると『ここまでできるのか』という驚きがあり、そこから主体的な活用が始まります。部内で具体的な活用事例を共有する文化も自然に生まれ、お互いに刺激し合う良い流れができています」(福井氏)
こうした地道な取り組みの結果、後藤氏が「今となっては、BuddyAIを取り上げてしまうと反発があるでしょうね」と話すほど、業務に欠かせないツールとして定着しているそうだ。
データの新常識「失敗こそが宝」
全社的な生成AI活用が進む中で、新たな課題と可能性も見えてきた。「個人の生産性向上では確実に成果が出ていますが、それを部署や組織全体の生産性向上につなげるには、まだ改善の余地があります。さらにその先にある、組織を跨いだプロセス全体の効率化を実現するには、データの準備がカギを握っています」(後藤氏)
注目すべきは、データに対する考え方の転換だ。「従来のITシステムでは、成功したデータだけを扱うのが常識でした。しかし生成AIの場合は違います。人間が『これは良くない』と判断して捨ててしまうような失敗データや試行錯誤のデータの方が、実は学習効果が高いのです」(後藤氏)。失敗データをいかに集められるかが、生成AIの進化を左右する、と後藤氏は強調した。
人事領域でのAI活用の今後について、福井氏は効率化の先を見据えている。「AIによって定型的な業務から解放されることで、人間にしかできない創造的な仕事に集中できるようになります。人的資本を競争優位の源泉と位置付け、人材に投資することで、人材が育ち、人材で勝つ会社を目指します」(福井氏)
キリンHDの事例は、日本企業がAI時代にどう向き合うべきか、ヒントを示している。テクノロジーと人間が対立するのではなく、それぞれの強みを生かして共創する道が、これからは求めらるのだろう。
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