AIに恋し、悩みも相談――インタビューで明らかになった、“想像を超える”生活者の生成AI活用術(1/2 ページ)
人とAIの関係は、これからどうなっていくのだろう。博報堂が日本、中国の生活者を対象に実施したインタビュー調査では、“驚きの”生成AI活用の実態が見えてきた。
生活者は実際、どんなふうに生成AIを利用しているのだろうか。
博報堂メディア環境研究所が行った「グローバルメディアテック調査」によると、いつもは新しいテクノロジーに対して保守的な人が多い日本人(調査対象は1都3県)でさえ、5割超が生成AIを利用した経験を持つという。これでも世界に比べればやや遅れているのが現状だ。LAやロンドンでは7割以上、上海では9割以上に利用経験があるそうだ。
東京で最も多いのは「勉強・学習」(48.1%)、「オフィスワーク」(46.2%)とイメージ通りだが、約3割は「AIと対話」「暇なとき」「趣味・娯楽/遊び」に利用しており、約2割は買い物にも活用している実態が見えてきた。
これは想定の範囲内だという人も多いだろう。「AIはどんな存在ですか」という質問に対しても、東京では「道具」「自分とは無関係な存在」と、AIとは一定の距離を保った回答が多く見られた。
ところが、生成AI先進国の上海では、「趣味・娯楽」(46.2%)、「投資やお金の管理」(38.8%)が上位の利用目的となっており、約3割がAIの存在を「友人」「仲間・同僚」「秘書」と回答。東京よりも上海のほうが人とAIの距離は近く、“AIの擬人化”が進んでいることが分かる。
人とAIの関係は、これからどうなっていくのだろう。博報堂が日本、中国の生活者を対象に実施したインタビュー調査では、“驚きの”生成AI活用の実態が見えてきた。
この記事は博報堂メディア環境研究所が実施したフォーラム「AI as Media〜メディアとしてのAI〜」の内容を基に、前後編で紹介する。
【日本編】「経営の熱血コーチ」「愚痴を聞いてもらう」 3つの傾向
まずは日本で行った「AIと仲良く暮らす生活者インタビュー」の結果を見ていく。インタビュイーは「ビジネス以外の目的で最低でも週1回以上AI関連サービスを利用している」生活者だ。
- 「ダイエットしているときにAIで食べるもののカロリー計算をしながら自炊をしている」(29歳・女性)
- 「買い物をするときにAIに複数の口コミサイトの情報を一元的な比較表にしてもらった」(50歳・男性)
- 「AIに熱血コーチになってもらい、3カ月でネイルサロンを開業した」(23歳・女性)
- 「悩み相談・投資相談・健康相談・ウェディングプラン相談・不動産相談といったように、気分や目的に応じて部屋を分け、自分に合ったアドバイスをもらっている」(27歳・女性)
- 「マッチングアプリで使うための女の子にモテそうなプロフィールを考えてもらっている」(40歳・男性)
- 「人には言えない不満や愚痴を投げつけて、心を整理している」(25歳・男性)
- 「これまでSNSに書き殴っていた愚痴をAIに吐き出すようになった」(27歳・女性)
こうして日本の生活者インタビューから見えてきた「AIはどんな存在か」について、博報堂メディア環境研究所 研究員の朝本美波氏は、次の3つのポイントにまとめた。
1. 分からないことを聞く相手
2. できないことを相談しながら進める相手
3. 感情を安心して発散できる存在
つまり、AIは生活者に対して、単に情報提供したり業務効率化を支援したりするだけでなく、生活者の感情領域までをも支える存在になりつつあるのだ。
【中国編】もはやAIなしでは生きられない?! 買い物も恋愛もAIと一緒に
続いて、上海で行った「AIと仲良く暮らす生活者インタビュー」の結果を見ていく。
- 「口紅の試し塗りした写真をAIに送って意見をもらいながら買い物をしている」(20歳・女性)
- 「理想の部屋の写真をAIに渡して、同じような部屋を実現するためのリフォームの提案をもらっている。具体的な塗料のブランドや色、費用の概算も教えてくれる」(20歳・女性)
- 「予算や家計の状況をAIに渡すとともに、6社の自動車保険の見積もりを伝えて比較してもらった結果、『諦めたほうが良い』とアドバイスもらい、買いとどまった」(22歳・女性)
- 「お金の無心しかしてこない母親についてAIに相談。母親の気持ちにも配慮したメッセージを作成してもらい、関係を改善していった」(22歳・女性)
- 「彼氏の声をAIに学習させ、AIの彼氏に不満をぶつけて心の安定を図ったことで、現実の彼氏との関係が改善した」(25歳・女性)
- 「亡くなった祖父の人格をAIで再現して会話をしている。まるで電話で励まされているように感じ、愛情を得ている」(28歳・男性)
- 「AIとエンディングノートを作成。AIには自分の分身として生き続けてもらい、周囲の人たちの悲しみを和らげたいと思っている」(31歳・女性)
- 「複数のキャラクターAIを恋人にして付き合っている。日々、AIの彼氏と会話をして楽しむことで、毎日を充実させている」(25歳・女性)
このように東京と中国のAIとの向き合い方を比較すると、東京ではAIを「まだまだ道具」として捉えているのに対し、中国では「継続的な信頼・愛着関係を築くパートナー」にまでAIの存在が大きくなっていることが分かった。
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