沖縄から全国へ出店加速 ご当地アイス「ブルーシール」が挑む、体験型店舗の狙いとは?(1/2 ページ)
沖縄のソウルフードとして知られるアイスクリームブランド「BLUE SEAL」(ブルーシール)が、関東を中心に全国ブランドへの転向を強めている。4月には埼玉県越谷市のイオンレイクタウンに、新店舗をオープンした。担当者に狙いを聞いた。
沖縄のソウルフードとして知られるアイスクリームブランド「BLUE SEAL」(ブルーシール)が、関東を中心に全国ブランドへの転向を強めている。2006年8月の関東初進出以降、2025年7月時点で、関東や近畿・中部圏を中心に沖縄県外で31店舗を展開。2025年4月には、関東最大級の商業施設である埼玉県越谷市のイオンレイクタウンに新店舗をオープンした。ブルーシールは沖縄発のソウルフードから全国区のブランドへと成長を続けている。
その出店ペースの加速は、特に2020年以降、顕著だ。ブルーシールを運営するフォーモストブルーシールは、2020年度だけで東京都、埼玉県、和歌山県、愛知県の4都県に4店舗を新規でオープンさせた。翌2021年夏までの約1年間で、東京や埼玉など関東圏を含む12店舗を出店。2022年まで毎年10店舗近いペースでの県外進出が続く状況だ。この動きによって、関東をはじめとする県外でのブルーシールの存在感を一気に高めている。
なぜブルーシールの全国進出が続いているのか。担当者に狙いを聞いた。
(写真左)黒川裕未 (くろかわ ゆうみ)シャイン・コーポレーション社長室 兼 ライフスタイルデザイン事業 企画・広報 統括ディレクター(写真右)山城純一(やましろ じゅんいち)フォーモストブルーシール店舗運営部 店舗運営一課 兼 店舗開発課 次長
沖縄県内ではブランド戦略を強化 体験型店舗の狙いとは?
ブルーシールの歴史は戦後間もない1948年、米国本社のフォーモスト社が沖縄の米軍基地内に乳製品工場を設立したことに始まる。もともとは米軍関係者向けに供給されていたアイスクリームや乳製品は、当時の沖縄県民にとってなかなか手の届かない貴重な存在だった。しかし、1963年に浦添市牧港へと拠点を移し、一般向け販売を開始したことで、ブルーシールは「沖縄のアイスブランド」としての第一歩を踏み出す。
当時、アイスクリームは高価嗜好品でありながら、ドライブインスタイルの店舗やアメリカンな雰囲気が話題を呼び、次第に県民の日常に溶け込んでいった。1976年には、米国で優れた品質の酪農品に贈られる「ブルーリボン賞」にちなみ、社名を「フォーモストブルーシール」に改称。以降、沖縄の風土や人々の嗜好に合わせて商品開発を重ね、「米国生まれ、沖縄育ち」「わったーアイス(私たちのアイス)」のブランドイメージを確立していく。
ブルーシールの特徴は、米国由来のレシピをベースにしつつ、沖縄の高温多湿な気候に合わせてアレンジしたさっぱりとした味わいにある。1975年の沖縄国際海洋博覧会を機に県産フレーバーの展開も始まり、紅イモや塩ちんすこうなど、沖縄らしい素材を生かした商品が次々と登場。観光客や地元客のみならず、県外でも「沖縄の味」として評価を得るようになった。
経営面では、本土復帰後の1978年に日本政府から県外展開の認可を受け、徐々に本土への進出も開始。1996年にはポッカグループ、2013年にはサッポログループの一員となり、経営基盤を強化しながらブランドの全国展開を推進してきた。この間、直営店のリニューアルや体験型施設「ブルーシール アイスパーク」の開設など、ブランド体験の深化にも注力している。
2025年現在、ブルーシールの沖縄県内の直営店は12店舗を数える。これに加え、数字は出していないものの、パーラー(卸先店舗)が多数存在する。フォーモストブルーシール店舗運営部の山城純一次長は、「沖縄の店舗は、観光地や地元密着型のパーラーも合わせると相当数にのぼる。国際通りだけでも10店舗近くがブルーシールのアイスを扱っている」と話す。特に観光地や大型商業施設への出店が増え、県内外からの観光客が気軽に立ち寄れる環境を整えている。
沖縄本島だけでなく、宮古島や石垣島などへの出店も進めてきた。山城次長は「沖縄に来たら、どこでもブルーシールに出会える環境を作りたい。今後も直営店だけでなく、地域のパートナーと協力しながら、ブランド露出をさらに強化していきたい」と意欲を示す。
近年は牧港本店のリニューアルや新社屋の建設も進み、ブランド体験の場としての機能を拡充させている。2024年7月には牧港本店が「笑顔の思い出シアター」をコンセプトにリニューアルオープン。ドライブスルーの導入など新たな顧客体験を提供している。山城次長は「新しい本店は、世代を超えて笑顔が生まれる場所を目指した。これからも沖縄のアイス文化を支え、地域に愛されるブランドであり続けたい」と話す。
グッズ販売も好調
こうしたブランド戦略もあり、近年ブルーシールではアイスだけでなく、オリジナルグッズの売上高も急増している。特にTシャツや雑貨類は、観光客や若年層を中心に「かわいい」「お土産に最適」として支持を集め、販売数も年々増加傾向にある。
山城次長は「グッズの売上高が全体の2割近くを占める店舗もあり、複数人でまとめ買いするケースが多い」と語る。デザイン面でも、ブランドの世界観やレトロアメリカンな雰囲気を反映したアイテムが好評で、SNSでの拡散やインフルエンサーの発信も販売増に寄与している。
こうしたブランド体験は、イオンレイクタウン店でも提供している。同店では、ブルーシールならではのレトロアメリカンな世界観を店舗空間全体で演出するだけでなく、グッズ販売にも注力。従来の物販コーナーに加え、Tシャツや雑貨などのオリジナルグッズを自動販売機で手軽に購入できる仕組みを導入した。これにより、混雑時でもスムーズにグッズを手に入れることが可能にしている。
山城次長は「イオンレイクタウン店のような大型施設では、アイスクリームの提供だけでなく、グッズも含めたブランド体験を強化することで、より多くの顧客にブルーシールの魅力を伝えたい」と語る。ブランドの世界観を反映したアイテムや、SNS映えするフォトスポットなど、店舗ごとに工夫を凝らすことで、単なるアイスクリームショップの枠を超えた体験型ブランドとしての存在感を高めている。
これらの取り組みにより、ブルーシールは沖縄県内外で「食べる」「買う」「楽しむ」を一体で提供するブランドへと進化している。
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