沖縄から全国へ出店加速 ご当地アイス「ブルーシール」が挑む、体験型店舗の狙いとは?(2/2 ページ)
沖縄のソウルフードとして知られるアイスクリームブランド「BLUE SEAL」(ブルーシール)が、関東を中心に全国ブランドへの転向を強めている。4月には埼玉県越谷市のイオンレイクタウンに、新店舗をオープンした。担当者に狙いを聞いた。
コロナ禍を契機に県外進出に注力
2020年以降、先述の通りブルーシールは県外出店に注力している。このきっかけが、同年に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的流行だ。コロナ禍の始まりは、ブルーシールの事業戦略に大きな転換を与えた。沖縄への観光客が激減し、これまで観光需要に支えられてきた県内店舗だけでは売り上げ維持が困難になったからだ。
山城次長は「コロナ禍で沖縄に来られない方が増えた分、県外で当社のアイスクリームを楽しんでもらいたい思いが強まった」と振り返る。実際、2020年度には東京都、埼玉県、和歌山県、愛知県の4都県に新規出店。翌2021年夏までに関東圏を中心に12店舗を増やし、年10店舗近いペースでの拡大が続いた。これにより、ブルーシールの県外店舗数は急増し、2025年7月時点で36店舗に達している。
沖縄本島外や沖縄県外の出店は、直営ではなくフランチャイズ(FC)方式によって進めている。これは、各地域の市場特性やオーナーの経営力を生かしつつ、ブルーシール本部がブランド管理や品質基準を徹底することで、全国規模での安定したブランド体験を実現するためだ。
この急拡大の背景には、アイスクリームという商材の特性もある。冷凍流通による品質管理のしやすさや、フードロスの少なさ、季節や立地を問わず安定した需要が見込める点が、飲食業界の新規参入や既存店の業態転換の受け皿となった。
コロナ禍による外食産業の構造変化を受け、ブルーシール本部へのFC加盟希望も急増した。山城次長は「月に数十件の問い合わせがあるが、多くをお断わりしている」と明かす。ブランド価値を維持するため、出店場所やパートナーとなるオーナーを厳選する戦略をとっているのだ。
出店にあたっては、立地を最も重視している。山城次長は「ブランド力だけでの集客が難しい場所には出店せず、本部として本当に出すべき場所なのかをきちんと判断した上で、出店を決めている」と話す。
他企業とのパートナーシップ
この厳格なFC戦略のもとでパートナーシップを築き、沖縄本島外や関東での展開を加速させている企業が、埼玉を拠点とする三光ソフラングループのシャイン・コーポレーションだ。三光ソフラングループは不動産事業を祖業としながら、近年はホテルや飲食など多彩な事業を手掛ける。
ブルーシール事業への参画は、シャイン・コーポレーションの高橋大輔社長が「沖縄で愛されているこのブランドを、味だけでなくその思いごと全国に届け、お客さまの価値ある体験につなげたい」と感じたことがきっかけだった。
シャイン・コーポレーションでは、2022年3月の宮古島パイナガマ店出店を皮切りに、横浜のみなとみらいにある横浜ワールドポーターズ店など、これまで5店舗のブルーシールFC店に携わってきた。そして2025年、新たな拠点として挑戦を決めたのは、日本最大級のショッピングセンターであるイオンレイクタウンだ。
同社で企画を担当する黒川裕未さんは「当社の始まりは、埼玉の1軒の米屋だった。その創業の地である埼玉の、日本一のショッピングモールに出店したい思いが以前からあった。ブルーシールの持つ歴史や考え方といった本質的な面白さを、商品の魅力だけでなく、店舗空間全体を通して伝えていきたい」と話す。
シャイン・コーポレーションとブルーシールは、単なる店舗数の拡大を目的とするのではなく、「地域に根差したブランド体験の深化」を軸とした戦略をとっている。イオンレイクタウン店をはじめとする大型商業施設への出店を通じて、ブルーシールの世界観やストーリーに触れられる体験空間を展開。アイスの提供にとどまらず、グッズ販売やフォトスポット、触って遊べる店内の仕掛け、イベントなどを通じて顧客一人一人の価値体験を深めることで、ブランドの発信力を高めている。
埼玉・横浜・千葉・宮古島などの各店舗では、 出店立地のターゲットや地域性に応じて、ブルーシールならではの体験価値を創出した。例えばイオンレイクタウン店では、「時代の流行を感じる」をコンセプトとしたモール「kaze」に合わせ、20〜30代の若年層やファミリー層を意識した店舗設計を実施。時間帯に応じて変化する音楽や照明、触って楽しめる仕掛けやフォトスポットを取り入れている。
ブルーシールのルーツである“アメリカンダイナー”の起源を象徴する電車を店内に配置し、「沖縄からレイクタウンへ夢と笑顔を届けにやってきた」というストーリーを演出。電車内の内装は牧港本店と同じ雰囲気を味わえる設計とし、店内には他にもブルーシールの歴史に触れられる「ヒストリーコーナー」も設けた。
イオンレイクタウンkaze店の特徴は、他にもある。店内に設置されている3台のピンボールマシンは、本場の米国製。1950〜70年代の米国では、ダイナーといえばピンボールマシンが欠かせない存在だったという。店舗のコンセプト「レトロフューチャーアメリカンダイナー」の世界観を伝えるため、設置を決めた。ある世代にとっては懐かしく、子どもたちにとっては新鮮なピンボールは、世代を超えて楽しめる仕掛けとなっているようだ。
他にもシャイン・コーポレーションで運営する宮古島パイナガマ店では、観光客だけでなく、宮古島の地元の人にとっても自慢の名所となるような世界観を心掛けた。横浜ワールドポーターズ店では、沖縄と同様に文化と歴史が交差する港町・横浜の個性を踏まえ、「信号」をモチーフにした空間演出を展開している。
このように、それぞれの立地や顧客層に応じた多様な切り口から、ブルーシールの世界観を体感できる店舗をつくっている。
デジタル施策にも積極的だ。SNSやライブ配信、インフルエンサーとの協業を通じ、若年層やファミリー層に向けたリアルとオンラインを融合したマーケティングを強化。ブランド認知の拡大と、来店動機の創出を図る。実際に、店舗自体を発信の舞台と位置付け、 単なる“インスタ映え”にとどまらず、五感を通じたリアルな体験を重視。その中で生まれる発見が、自然とユーザー自身の発信につながるような仕組みをつくっている。
FCパートナーとの連携強化と品質維持も重要だ。FC店舗では本部によるオペレーション研修や定期的な店長会議を通じ、サービス品質やブランド哲学の共有を徹底。パートナー企業の自主性と本部のブランド管理を両立させることで、全国どこでも一貫した顧客体験を実現している。
ブルーシールは関東を中心とした全国展開を加速させる中で、「直営・FC合わせて50店舗体制」という目標を掲げている。出店数の拡大だけでなく、各地でのブランド価値や顧客体験の質を高めることにも力を入れており、今後もパートナー企業とともに、地域ごとに最適な展開を図る方針だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
観光3社が見いだした「オフシーズンの需要喚起策」 宮古島の成功事例となるか?
なぜ今、宮古島ではしご旅の需要が高まっているのか。その背景と可能性を探る。
午後7時閉店でも店長年収1000万円超え! 愛知県「地元密着スーパー」絶好調の秘密
愛知県東三河地方だけに5店舗しか展開していない「絶好調」のスーパーがある。「社員第一主義」を掲げ午後7時には閉店しているのに、店長の年収は1000万円を超える。その秘密に迫った。
キリン「晴れ風」が絶好調 “ビール好き”以外をどうやって取り込んだ?
キリンビールが4月に発売した17年ぶりのスタンダードビールの新ブランド「晴れ風」の勢いが止まらない。11月13日には年間販売が500万ケースを突破した。なぜここまで売れたのか。同社ビール類カテゴリー戦略担当の小澤啓介氏に話を聞いた。
苦戦のコーヒー業界で黒字転換 「豆で勝負した」タリーズが狙うのは“在宅需要”
伊藤園の2021年5〜22年1月期の連結決算ではタリーズコーヒー事業の営業損益は8億2200万円の黒字へ転換し、苦戦が続く飲食業界のなかで光明を見いだしている。黒字転換の要因は何なのか。タリーズコーヒージャパンのマーケティング本部でグループ長に、国内のコーヒー市場の変化に対するタリーズコーヒーの戦略を聞いた。
オリオンビール、発売1年未満で缶チューハイをリブランド リピート率が高かったのに、なぜ?
オリオンビールのnatura WATTAは、沖縄県産の果実で、かつ防腐剤およびワックス不使用のものだけを原材料として活用。消費者のウケは悪くなかったものの、ビジネス上の課題もあってなかなか売り上げ拡大につながらなかった。そうした反省を踏まえて、発売から1年もたたない今年7月に商品のリブランドに踏み切ったのである。その背景を取材した。
「ふらのワイン」の販売不振をどう解決する? 北大博士課程の学生が奮闘
4年連続で赤字になる見通しで、なんとか売り上げを伸ばしていきたい「ふらのワイン」。販売不振に北大の博士課程の学生が奮闘した。彼らはリピーターの購入商品に着目し、ある提案をしたのだが……。




