ヨーカ堂の“負け癖”断ち切れるか 復活支える「潤沢な投資余力」も:小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)
セブン&アイと分かれ、米投資ファンドのベイン傘下で再出発を切ったヨークHD。2028年の上場までに、歩むべき道のりとは?
ヨークHDの成長戦略の柱は?
戦略説明会では、ヨーカ堂の立て直し策として、今後3〜5年で数千億円規模の改装・IT投資を行い、事業を食品とヘルスケアに特化する方針が示された。その他部門は関係会社に移管し、店舗では2階以上のレイアウト変更や食品スーパーの改装を進めるという。
セブン&アイ時代の方向性と大きく変わってはいないが、総合スーパーの既存店再建策として、他に有効な手立てが乏しいため、これは当然といえるかもしれない。
ただ、ヨーカ堂はすでに不採算店舗の閉鎖や非食品売場のテナント化を進めているため、今後は収益改善やV字回復が実現する可能性は高い。
むしろ注目すべきは、ヨークHDの上場に向けた成長戦略である。
戦略説明会では、現時点での方針として、2030年までにヨーカ堂で10店舗の新規出店を行うことや、ベニマルの群馬・埼玉への進出が示された。また、2026年2月までに中期経営計画を公表するとしており、従来の延長線上ではない成長戦略については、その時点までに策定される見通しとなっている。
ベニマルは業界屈指の有力食品スーパーだ。これまでも着実に成長を遂げてきた実績があり、この10年で売り上げを約1000億円伸ばしている(図表2)。そのため、その延長線上にある施策は成功する可能性が高い。
一方、ヨーカ堂は今後5年間で新たに10店舗の出店を計画しているが、1店舗当たり売り上げを20億円と仮定すると約200億円の増加にとどまる。両者を合わせても、1400億円規模の拡大に過ぎず、数字としては決して小さくないものの、売上高1.6兆円の企業規模を考えると物足りなさが残る。
実際、国内最大の市場である関東エリアのこの10年を振り返ると、有力プレイヤーが次々と台頭し、ヨークHDが一人負けの状況に陥っていたことは明らかだ(図表3)。
ヨークHDが約5000億円の売り上げを失う一方で、イオンは同エリアでのトップシェアを確実なものとした。イオンは10年前に現在の傘下企業を出資先としていたが、この10年で食品スーパーの首都圏地域会社をUSMH(マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を事業会社とする共同持株会社)に統合。さらに、ミニスーパー「まいばすけっと」(以下、まいばす)の店舗数を3倍に拡大し、少なくとも売り上げ1.4兆円規模にまで成長させた。正確なデータは公表されていないものの、イオンリテールを合わせれば2兆円を超え、確実にトップシェアを確立したとみられる。
その他の有力食品スーパーも成長を遂げている。ヤオコー、オーケー、ロピアはいずれも売り上げ高を約4000億円伸ばし、ベルク、ライフ、サミットもそれぞれ1000億〜2000億円規模の増収を実現した。こうしてヨークHD以外の上位スーパーが、関東エリアで一段と存在感を高めている。
ディスカウントストアのシェアも急拡大した。ドン・キホーテを運営するPPIHは、傘下に収めたユニーとの統合効果もあり、売り上げを約2000億円伸ばした。さらに、九州発のトライアルHDは今年に入り西友を買収し、首都圏を中心に5000億円弱の増収を確実にした。
こうした動きを見るだけでも、この10年間でヨークHDがシェアを大きく失ったことが分かる。それどころか、自らの低迷が、結果的に強力なライバルを育ててしまったとも言える。
首都圏に特化するヨークHDが大手として生き残るには、新たな成長戦略を打ち出すことが不可欠である。
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