元球団社長が「地方の回転すし屋」に……なぜ? 銀座、国会議事堂に打って出た塩釜港の勝算:地域経済の底力(5/7 ページ)
行列の絶えない回転ずし店「塩釜港」が、銀座や国会議事堂などに次々と出店している。その背景にある思いとは……。
人を育てるための仕組み作り
ただ、急激な事業拡大には苦労が伴った。特に、初めての出店となった仙台店の開業は、立花社長も苦々しい表情で振り返る。
「仙台店のオープン初日、多くの来客で忙しく、賄いが用意できなかったことから、職人3人がランチタイムに店を抜けてしまったのです」
地方の町のすし屋で働く職人たちと、立花社長が目指す「世界中から塩釜にすしを食べに来てもらう」というビジョンとの間には大きなギャップがあったのだ。
「塩釜から出たことがない人もいて、仙台ですら都会に感じて萎縮してしまう。そんな状態から事業がスタートしているので、本当に大変です」
時間はかかったものの、仙台店の運営を軌道に乗せることができた。しかし、店舗を広げて人を増やす度に、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。社員の意識や価値観を変える必要があると考えた立花社長が取った施策の1つが、ジョブローテーションだ。
「例えば、銀座で3カ月働いてもらい、客単価3万円のお客さまの対応をすることで、接客をはじめ高いレベルが求められる経験を積むことができます。それにより、本店に異動して忙しくする中でも、『お客さまの目も見ずに仕事をしていて良いのか』と気付けるようになるのです。『あいさつしなさい』などと指導するより、そうした経験を積ませる方が、人材が格段に早く育ちます」
一方、“会社組織”として運営してくことで、職人気質の強い人材が去っていくという現実もある。
「仕事の進め方に強いこだわりがある人は、合わずに辞めていきます」と立花社長は話す。
人の出入りはありながらも、現在の従業員数はパートを含めて150人以上、正社員は50〜60人まで拡大した。今後も採用を強化していく方針だが、人口減少社会においては、職人をきちんと育てていくことを考える必要があるという。
その一環として、今年10月に若手すし職人育成のためのスクールを東京で開講する。「われわれは買参権を持っているため、塩釜の競りにも参加できます。すしの握り方だけでなく、魚の目利きから経営まで、一気通貫で教えられるのが特徴です」と立花社長は力を込める。
さらに、関連事業との連携も進める。2025年4月に立花社長は塩釜の水産加工会社・ヤママサの代表にも就任。すでに同社との協力体制を構築しており、主力商品であるタラの加工が閑散期の夏場は、ヤママサのスタッフが塩釜港の店舗で働くなどしている。
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