経済損失額は約9兆円 苦しむ「ビジネスケアラー」たちを放置する会社の無責任:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
2030年には、仕事をしながら家族などの介護に従事する「ビジネスケアラー」が約318万人になると推計されています。しかし、問題の真の深刻さは、数そのものではなく、介護者が直面する「質」にあるといえます。
ビジネスケアラーのリアルな声
介護は育児と異なり、親の“変化”は突然です。一つの大きな変化をきっかけに、次々と予期せぬことが起こり、状況が一時的に改善することはあっても、長期化することがほとんどです。この「いつまで続くか分からない」という出口のない不安と、仕事との多重役割による葛藤と疲労から、うつ傾向が強まるケースは決して少なくありません。
大手メーカー勤務のAさん(50代)もその一人です。
「会社には、親のことは話していません。周りに心配をかけたくないとか、自分の評価に影響するんじゃないかとか、あれこれ理由はつけられますけれど、ただ単に言いたくなかったんだと思います。介護問題って、実家と会社の往復など物理的な問題もあるけれど、精神的な問題も同じくらい大きい」
「私の場合、自分の仕事のパフォーマンスが低下しているのがストレスでした。別に上司に言われたとか、ミスしたわけでもない。ただただ父が倒れてから『これでもか!』というくらい両親のことが頭から離れないので、仕事に集中できなかった。常にイライラしていました」
「自転車に乗っている時に転んで手首を捻挫して。もう限界でした。妻に言われて病院に行ったら、『うつ傾向なので仕事を少し休んだ方がいい』と言われました。でも、この状態で会社を休むのは何か違うような気がして。ですが、会社は続けられなかった。金銭的な問題もあるので両立できればよかったのでしょうけどね。周りに迷惑を掛けたくないし、思い通りの仕事ができない自分もいやだった」
ただ単に言いたくなかった──。なんて悲しい言葉なのでしょうか。この言葉には会社への信頼の欠如と絶望が含まれています。「人的資本」だの「心理的安全性」だのが経営の最重要テーマとして叫ばれているのに、会社組織の最上階の人たちは、偉くなると年をとらないとでも思っているのでしょうか。
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