経済損失額は約9兆円 苦しむ「ビジネスケアラー」たちを放置する会社の無責任:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
2030年には、仕事をしながら家族などの介護に従事する「ビジネスケアラー」が約318万人になると推計されています。しかし、問題の真の深刻さは、数そのものではなく、介護者が直面する「質」にあるといえます。
介護問題を「自分ごと」にする
繰り返しますが、介護問題は誰にでもある日突然、起こりうる問題です。「介護をする社員が増えてから」「介護で離職する社員が増えてから」などと、悠長かつ無責任なことを言ってないで、企業は早急に取り組むべきです。
と、何だか書いているだけで悲しくなってきたので、会社のため、社員のため、「私」のために、介護問題に積極的に取り組んでいる企業を紹介します。日立製作所です。
私が同社の支援策の詳細を知ったのは、日立製作所の担当者が私の書いた介護問題に関するコラムを読み、連絡をくれたのがきっかけでした。同社では45歳以上の社員が46%以上を占めることから、「介護離職はしない・させない」を合言葉に、2018年から「教育」と「支援施策」に乗り出したそうです。
私がもっとも感動したのは、突然の変化に備えるために「40歳以上の全従業員に仕事と介護の両立に関する基礎教育」と「全管理職に仕事と介護の両立マネジメント研修」を実施していたことです。介護問題を「他人ごと」としてではなく、「自分ごと」にしているのです。
誰もが老い、やがて介護される側になるという現実がある一方、会社と介護を結ぶ糸はとてつもなく細い。介護は個人的な問題ですが、1人で抱えるのは無理です。あなたの半径3メートル世界に、介護と仕事との両立に苦労している人がいないか、今一度見渡してください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) など。
新刊『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)発売中。
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