「Z世代同士だからうまくいく」は幻想 若手任せのOJTが早期離職の引き金になるワケ:労働市場の今とミライ(4/4 ページ)
昨今、若手の早期離職が大きな問題となっている。さまざまな要因が指摘されているが、筆者は若手に任せっきりのOJTに原因があると考えている。その理由とは?
「Z世代同士だからうまくいく」は幻想
新人と年齢が近いというだけで育成担当者を任されても、コミュニケーションが苦手な人がいるだろう。前出のスタッフサービス・ホールディングスの調査では、具体的なコミュニケーションの悩み(相手が20代)として最も多かったのは「業務連絡以外のコミュニケーションの場がなく、人間関係を築きにくかった」(32.7%)だった。続いて「とっつきにくい雰囲気があった・嫌われているように感じた」(29.4%)、「威圧的・怒っているような態度で接してきた」(22.4%)の順となっている。また、最も退職につながった悩みでも「とっつきにくい雰囲気があった・嫌われているように感じた」がトップとなった。
つまり、年齢が近い、同じZ世代だからコミュニケーションがうまくできるというのは幻想にすぎない。逆にZ世代だからこそ目の前の自身の仕事が忙しく、タイパやコスパ重視の指導になる恐れがある。加えて半人前の新人をOJTの育成担当者に任命することで火に油を注いでいるとしか思えない。おそらく職場の人間関係を理由とする1年未満の退職の背景には会社側のOJT体制の不備が影響していると推測される。
ではOJTを含めてどのように新人に対応すべきなのか。取材の結果をまとめると、以下の3つだ。
- 上司が新人のOJTを始める前にキックオフを実施し、周りの部下に対してしっかりと協力してほしい旨を伝え、新人の育成に関して周囲がサポートする体制を築くこと。
- OJT担当者にすべてを背負わせない。メインの指導役を1人置き、新人が4人の場合は4人の担当者が1週間ごとに入れ替わって担当する方法も効果的。
- 新人に育成目標の意図を明確に分かりやすく説明し、ストレッチな目標と場を設定し、つまずいた場合に周囲がフォローする。
もちろんその前に、前出の自動車メーカーのように指導役の研修は不可欠だ。同社の人事担当者は「研修では入社後に先輩にしてもらったうれしかったことを思い出し、後輩の面倒を見ることの大切さなどの意識改革、仕事を通じてどのように教えていくべきなのかという具体的な指導方法について徹底的に学習させる」と語る。
以前ならどの企業でも当然やっていたことだが、今では日本企業のOJTが衰退しているとも指摘されている。それが新人の早期離職を招いているとしたら大きなリスクといえるだろう。
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