「仕事は楽な方がいい」 ワイン一筋から「デジタル人材」に大変身 キリンDX道場でベテラン社員が学んだこと(4/4 ページ)
多くの企業がDX人材の育成に課題を抱えている中、キリンHDは2021年から、「DX道場」という独自プログラムを展開。受講者の中には、研究職出身ながら業務自動化ツールを使いこなし、具体的な成果を挙げた例も出ているという。同社に話を聞いた。
学んだことを、自分や周囲の「困りごと」につなげる
田村氏はなぜ、学んだデジタルスキルを活用してここまでの成果を出せたのか。「まずは、一つでもいいから学びをアウトプットすることが大切だと思っています。複雑な業務フローの中、1カ所だけでも自動化できたら、今の仕事が少し楽になるかもしれない。そういう視点で取り組むといいんじゃないでしょうか」(田村氏)
同社内には、キリンビジネスシステムが運営するPower Platform活用コミュニティがある。開発中の困りごとを投稿すると、専門家や経験者が解決策を示す仕組みだ。田村氏はこのコミュニティを常に「横目で見ている」という。
「最近だと、『ダウンロードした300枚の画像のファイル名を、一つ一つ変更するのが大変だ』という投稿があり、解決するための自動化フローを作った方がいました。それを見て、僕が所属する部門でも同じように困っているメンバーがいるのでは? と考え、該当しそうな人にそのフローを紹介しました」(田村氏)
こうした実践者が次々と生まれる背景には、DX道場の設計思想がある。野々村氏は、DX道場を単なるスキル研修ではなく、機運醸成の場として位置付けている。
「全従業員が必ず身に付けるべきスキルは、実はそれほど多くありません。大切なのは、まず試してみる、触ってみようというマインドを全従業員に醸成することです。それを意識しながら研修を設計し、実施しています」(野々村氏)。デジタルツールは比較的試しやすく、「まずやってみる」というマインドを育てる手段として適している。この機運醸成を重視する点が、他の教育施策との大きな違いだ、と野々村氏は解説する。
一方で共通するのは、どの研修も実践を意識し、業務課題に対する仮説構築やリーダーシップを重視している点だという。DX道場は、キリンHDの人材育成の基本思想を踏襲しながら、デジタル時代に必要な要素を加えた施策といえるだろう。
野々村氏は今後、DX道場をさらに発展させていく構想を描いている。「今後はもう少し広い視野で、バリューチェーン全体を考えられる人材を育てていきたいと思っています。自部署だけでなく、他部署も含めた課題を捉え、リーダーシップや変革の要素まで身に付けられるよう、DX道場をアップデートしていきたいです」(野々村氏)。生成AIツール「BuddyAI」の全社展開を機に、AI活用の部分もさらに拡充していく方針だ。
DX人材育成は、特定の人や部門だけの課題ではない。全従業員が自分の困りごとと学びをつなげられる環境を整え、小さな成功体験を積み重ねられる仕組みを作る。リーダー層も巻き込み、コミュニティで知見を共有し、柔軟に進化させ続ける。こうした地道な取り組みこそが、これからのDX推進の鍵になるのかもしれない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
製薬DXはなぜ難しい? 第一三共が突破した「組織・人材・規制」3つの壁
第一三共は2025年4月、経済産業省などによる「DX銘柄2025」に3年連続で選定された。DX企画部部長の上野哲広氏と、同部全社変革推進グループ長の公文道子氏に、具体的な取り組みを聞いた。
きっかけは「やばくないですか?」の一言 アトレのAI活用リーダーが語る、全社を巻き込むコツ
一部の社員だけがAIを使い、組織全体への浸透が進まないという壁に直面する企業も少なくない。そうした中、アトレは3カ月余りでGemini利用率95.5%を達成した。成功の秘訣とは?
年間「7000時間」削減 ファンケル業務効率化の立役者が語る、RPA導入が成功した秘訣
「定型業務を省力化したい」と悩む企業は少なくない。ファンケルは2019年末、RPAツールを導入し、年間7000時間もの業務削減を実現した。導入の経緯や成果を同社に聞いた。
たかが数分、されど数分 接客の大敵「待ち時間」をファンケルはどう解決した?
店舗接客の悩みの種である「待ち時間」。スタッフにとってもお客にとっても、短いに越したことはない。この待ち時間について、ファンケルは徹底した現場目線で解決を図った。
