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【税制改革】「年収の壁」引き上げで何が変わる? 基本の考え方や企業への影響を、社労士が解説(2/3 ページ)

「年収の壁の引き上げ」に関連して行われた2025年度の税制改革。企業の社会保険や賃金制度への影響も無視できません。主に社会保険に関する年収の壁の変更は企業にどのような影響があるのか、社会保険労務士が解説します。

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106万円の壁と130万円の壁の違い

 社会保険料の支払いが発生する社会保険の壁には「106万円」と「130万円」があり、困惑している人もいるかと思われます。原則としては企業規模により、適用される金額が異なります。

 常時雇用されている労働者が51人以上の企業では、週20時間以上の勤務、2カ月を超える雇用見込み、昼間の学生でないという要件をすべて満たした上で、毎月の収入が8万8000円を超える労働者は社会保険へ加入させなければなりません。8万8000円を年間に換算すると105万6000円になりますので、数字を丸め106万円の壁が適用されるのです。なお、106万円の壁は2026年10月を目途に撤廃される予定です。

 社会保険に加入すれば、給与から厚生年金と保険料が天引きされるので手取り額は減ります。その半面、年金制度の2階立て部分といわれる厚生年金や、国民健康保険にはない働けなくなった場合にもらえる傷病手当金など、保障の面では手厚くなるというメリットもあります。

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年収106万円、130万円の壁の算定対象となる収入(厚生労働省「年収の壁について知ろう」より引用)

 一方、51人以下の企業で働く労働者の年収が130万円を超えると配偶者の扶養から外れ、自らが社会保険料を支払わなければなりません。106万円の壁と異なるのは、厚生年金や厚生年金保険ではなく、国民年金や国民健康保険に加入しなければならない点です。

 51人以下の企業が社会保険に加入させないといけないのは、正社員の4分の3以上の時間、すなわち週30時間以上働いた場合となるからです。東京都の最低賃金に換算すると1カ月120時間×1221円×12カ月で175万円以上となるので、130万円を大幅に上回らないと厚生年金や厚生年金保険に加入できないのです。106万円の壁のように将来もらえる年金額が増えるなどの保障が手厚くなるわけではないので、労働者にとってメリットはありません。

 130万円の壁については、引き上げられる予定はありません。税制上の壁が引き上げられても、社会保険料に関する壁も合わせて引き上げられなければ、年収の壁をにらんだ労働時間の抑制につながらないでしょう。

 この点を考慮して最近、厚生労働省は、年収が扶養認定基準額である130万円を超過する場合でも「人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動」であると認められる場合は、事業主の証明により扶養申請が可能とする扶養者認定を一時的な措置から恒久化すると公表しました。

 事業主による被扶養者認定とは、パートやアルバイトで働く人が繁忙期に労働時間を延長したことにより、収入が増えたとしても会社が証明書を提出すれば社会保険の「被扶養者のまま」として扱われる制度です。2年前の2023年に年収の壁対策として設けられました。当時は一時的なものといわれましたが、今年度の税制改革や最低賃金の底上げを考慮して恒久化されたものと思われます。

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