日立「Lumadaの中核人材」が副業でビール醸造 地域貢献がマネジメント力を育てた理由(2/2 ページ)
東京・大森の地域活動に参画し、ビール醸造に携わっている日立の斎藤岳さんだ。管理職をしながら副業に取り組んでいる理由や、副業が本業にもたらしている影響を、斎藤さんに聞いた。
管理職をしながら副業に取り組むワケ
――現在はマネジメントの立場として幅広い役割を担っています。管理職として特に意識していることはありますか。
今は、昔に比べてメンバーの意見をしっかり聞くことを意識していますね。以前は管理職が多くの指示を現場に落とすイメージが強かったのですが、それだけではうまくいかないと感じています。特にコロナ以降は強く実感しました。
従来の出社型の仕事の仕方から、リモート勤務が当たり前になっています。私のチームメンバーの多くが、リモートで働いています。若いメンバーは入社当初からリモートが前提なので、全面的な出社は経験していません。ですから出社のメリットを伝えることは、難しい部分もあります。「なぜ出社する必要があるのか」と疑問を持つのも当然です。それらの意見に耳を傾ける必要があると考えています。
コロナ渦前には、例えばプロジェクトルームに入って顔を突き合わせ、仲間意識を培いながら仕事を進めた経験がありましたよね。それらの良い点も多くあると考えています。しかし、その経験がない世代の社員も、当然ながら増えているわけです。昔の成功体験や自分の世代の感覚だけでは、チームを引っ張ることが難しくなっています。だからこそ、メンバーの意見を聞き、「あなたはどうしたいのか」となるべく問いかけるようにしています。
時には「自分にはなかった発想や考え方だな」と感じることもあります。ですが、それを頭ごなしに否定するのではなく、可能な限り耳を傾け、採用できる部分は取り入れる。そうすることで、本人たちの自律性を高めるようにしています。
――時代の変化によって、管理職に求められるスキルも高度化していませんか。
正直に言うと、その分マネジメントの負荷は上がっていると感じます。メンバーの意見を一つ一つ聞くには相当な工数がかかります。
リモート中心になってきたことによって、会議もマネジメント量も増えていると感じています。だからこそ、マネジメントの在り方も二極化していくかもしれません。多様な声を拾った上でチームを導くスタイルと、従来通りのトップダウンで効率重視のスタイル。その両方が、今後もケースバイケースで併存していくのではないかと思います。
私はLumadaの事業が移管されてきた際、その事業をやってきたチームの中に、いきなり入ってマネジメントをする立場になりました。メンバーもほとんどが初対面で「完全にアウェー」の状態からマネジメントにチャレンジすることになりました。それぞれのバックグラウンドも違うし、仕事のやり方も異なる。だからこそ、一つ一つ言葉を工夫して伝えたり、やりとりを重ねて理解を積み上げたりする必要がありました。
これからのマネージャーには、多様性を理解し、感情面を含めて「人を動かすスキル」が求められると思います。意思決定だけでなく、想像力と理解力を持ちながら、多様な個を束ねて成果を出すことが大事になるのではないでしょうか。
副業が本業にもたらした影響 マネジメントに生きた?
――日立での部長職としてのマネジメント業務と、副業のビール醸造活動は、一見すると全く違う分野に思えます。ご自身の中でつながっている部分はありますか。
それはありますね。日立でやっている仕事は基本的にはB2Bの世界ですが、ビールの世界は完全にB2Cです。そこは大きく違います。分かりやすい例を挙げると、日立でビジネスの企画を立案して、実際にサービスを開発したとしても、成果が見えるのは数カ月後や1年後かもしれません。でもビールはサーブした瞬間に、顧客の反応が返ってきます。その期間の違いは非常に大きな違いです。おいしければお客さまの笑顔がすぐに見えますし、ダメなら逆に首をかしげられる可能性もあります。そのダイレクトさとスピード感は、私にとって新鮮な学びになっています。
ブルワリーの仲間と議論するときは、普段の日立のマネジャー目線とは逆で、私はできるだけファシリテートはせず、聞き役に回るようにしていることが多いです。一人一人のバックボーンや考え方が日立の社員とは全く違うので、「なるほど、そういう見方をするのか」と刺激を受けることが多いですね。自分はプレゼンや企画資料をまとめたり、言語化したりするところで貢献していますが、むしろ人の話を聞く姿勢を学ぶ場になっています。
この経験は、日立での本業にも役立っていると感じます。特に顧客へのプレゼンテーションでは、難解なことをいかに分かりやすく説明するかが重要です。Lumadaのように外から見ると分かりにくい概念をどう伝えるか。そこで副業のB2Cで得た「相手起点でシンプルに価値を伝える」感覚が生きていると思います。
自戒を込めてお話すると、われわれの資料はどうしても「自分たち側が言いたいこと」を詰め込みがちで、相手にとっては伝わらない、かつ膨大な物量になってしまうことが良くあります。しかし、ブルワリーでの経験から「なるべくシンプルに伝え切る」意識が強まりました。合意形成の仕方やプレゼン資料の作り方にも、よい影響が出ていると実感しています。
――副業での学びが、社内へのマネジメントに生きた点はありますか。
想像力と柔軟性が鍛えられました。過去の経験値頼みの意思決定を、極力避けられるようになりましたね。以前は自分の成功体験に多くの判断が引っ張られがちでしたが、今は他者のやり方に委ねるほうが良い場面では躊躇(ちゅうちょ)なく任せられます。状況をニュートラルに見極める癖が付きましたね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
日立、フィジカルAIに注力 「Lumada3.0」で社会インフラ業務を変革
日立製作所が「世界トップのフィジカルAIの使い手」を目指す――。 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEOの細矢良智氏は「それぞれの領域で培ってきた取り組みがドメインナレッジとなり、それをフィジカルAI、エージェンティックAIとつなげることで、これまでにない力を発揮すると考えています」と話した。
日立「モノづくり実習」に潜入! 新人データサイエンティストの製造現場「奮闘記」
日立製作所が2021年から展開している新人研修プログラム「モノづくり実習」。実際に実習に参加した新進気鋭のデータサイエンティスト2人に聞いた。
日立流・データサイエンティスト育成法 工場に派遣、“泥臭い”研修の手応えは?
日立製作所は、データサイエンティストを対象とした新人研修プログラム「モノづくり実習」を2021年から展開している。狙いは何か。現場はどう変わったのか。日立の担当者に聞いた。
日立が「1兆円買収」した米ITトップを直撃 日本企業の“根本的課題”とは?
日立の執行役常務と、デジタルエンジニアリングビジネスユニット(BU)のCEOも務めるGlobalLogic社長兼CEOのニテッシュ・バンガ氏に、日立との統合がシナジーをもたらした要因や、日本市場の展望について聞いた。
日立、米IT「1兆円買収」でどう変身? 文化の違いを“シナジー”に変えた手腕
「シリーズ 企業革新」日立編の4回目は、Lumada事業をさらに成長させている取り組みとして、2021年に約1兆円を投じて話題になった米GlobalLogic買収のその後に迫る。
日立の好業績を牽引する“巨大事業”の正体 日立デジタルCEOに聞く
日立は2009年当時、日本の製造業で過去最大の赤字だった状況から再成長を果たした。復活のカギとなった巨大事業、Lumadaのビジネスモデルとは――。日立デジタルの谷口潤CEOにインタビューした。
27万人の巨艦・日立はいかにしてDXを成功させたのか “知られざる変革劇”に迫る
日立のV字回復を支えたコスト構造改革とDXは、いかにして進められたのか。その裏側を、スマトラプロジェクトで中心的な役割を担った冨田幸宏・DX戦略推進部部長に聞く。
日立、生成AIで「ノウハウ属人化」に終止符 仕組みは?
日立製作所は4月24日、企業の実務に必要なノウハウの継承と定着を支援する「ノウハウ視える化・継承ソリューション」の提供を開始した。

