NTT「IOWN構想」に世界が動き出した 成否を握る“ブレークスルー技術”とは?(2/3 ページ)
NTTが提唱する「IOWN構想」では2030年をメドに伝送容量を現在の125倍、遅延を200分の1、電力消費を100分の1に抑える計画だ。飛躍期を迎えたIOWNの歩みと、米南部ダラスで開かれた推進組織のメンバー会議の現地取材から今後の課題を展望する。
クラウドの国際標準化組織とも連携へ
オープニングセッションではデータセンターやクラウド技術の国際標準化組織「Open Compute Project」(OCP)でチーフ・イノベーション・オフィサーを務めるクリフ・グロスナー氏も登壇し、OCPとIOWN Global Forumとの協力関係の重要性を訴えた。
OCPは米Meta(旧Facebook)などが2011年に設立し、役員にはGoogleやMicrosoft、Intel、AMD、NVIDIAなどの米有力IT企業が加わり、ハードウェアを提供する台湾メーカーなどがメンバーとなっている。毎年8月には台北市で全体会議の「OCP APAC Summit」を開催し、2024年の会議にはIOWN Global Forumの代表としてNTTの幹部らが講演者に呼ばれた。そうした関係からグロスナー氏も今回、ダラス会議で講演することになった。
両組織がここへ来て急速に接近したのは、IOWN Global Forumは次世代光通信基盤の推進組織ではあるが、標準化組織ではないため、IOWNの実装を促すにはOCPのような標準化組織との協力が重要だと考えられたからだ。そのお膳立てをしたのがペガトロンなどの台湾の通信機器メーカーや日本の産業技術総合研究所(産総研)に相当する台湾の「ITRI」(工業技術研究院)だった。グロスナー氏は「生成AIの広がりに伴う電力需要の拡大に対応するにはIOWN Global ForumとOCPのメンバー間の協力が重要だ」と訴えた。
OCPには米国の有力IT企業のほか、英国のARMや韓国のサムスン電子など世界約500社・団体が参加しており、2025年時点のメンバーの世界総売上高は約1070億ドル(約16.4兆円)にも上るという。グロスナー氏は2029年にはこれが1900億ドル(約29兆円)まで伸びる見通しだと語り、「IOWNのメンバーにとっても新たなチャンスになるはずだ」と指摘した。
フォーラム活動の成果を公開セッションで発表
IOWN Global Forumでは年次総会とは別にフォーラム活動の成果を対外的に発表する「FUTURES」(フューチャーズ)という公開セッションを2024年のバンクーバー会議から設けている。ダラス会議でもそのセッションが開かれ、Forumの会長を務めるNTTの川添雄彦チーフエグゼクティブフェロー(前副社長)が開会のあいさつを述べ、「生成AIの登場により、IOWNに対する関心が大きく高まった」と強調した。
コロナ禍でオンライン会議やリモートワークなどのネットワーク需要が大きく高まったが、2022年11月に米OpenAIが「ChatGPT」を投入したのを機に情報通信リソースや電力の需要が急激に高まったことで、IOWNの省電力機能にさらに大きな期待が集まったというわけだ。
ダラス会議ではこれまで進めてきたIOWNのPOC(概念実証)の成果が多数発表された。日本では9月に国立競技場で「東京2025世界陸上」が開催され、報道を担ったTBSテレビはIOWNのAPNを活用したリモート制作でさまざまな競技を放映した。スポーツ中継はこれまで会場に大型の中継車を持ち込み、現地で映像素材を編集してから放送局に送っていたが、高速大容量のAPNを活用することで映像素材をそのまま放送局に送り、局側で編集できるようになった。これにより中継車にかかるコストを削減し、編集作業の自由度も大きく高まったという。
ほかのPOCでは金融機関向けのデータセンターの地域分散化や生成AI向けのGPU(画像処理半導体)データセンターの共同利用なども紹介された。金融機関向けデータセンターはこれまで証券取引所などがある都市部に置く必要があったが、APNを活用すれば電力コストの安い地方に配置するなどデータセンターの分散化が図れる。GPUデータセンターもAPNを使えば複数企業による設備の共同利用が可能になる。光技術に強い米通信機器メーカー、米Ciena(シエナ)のラルフ・ロドシャット副社長は「IOWNを活用することで、十分な電力供給があるところにデータセンターをつくることが可能になる」と指摘する。
成功のカギ握る光電融合デバイスの開発
IOWNを実現していく上での今後の大きな課題は、光信号と電気信号を交互に変換する光電融合デバイスの実用化だ。NTTが示したIOWNのロードマップでは2030年までの道のりを4つのフェーズで示している。
現在の通信システムは、通信部分は光信号で情報を送っているが、末端のサーバや端末との間は電気信号で処理しており、そのための変換が遅延やロスを招く原因となっている。第1フェーズではAPNで末端の装置までエンド・トゥー・エンドで光接続することにより、遅延を200分の1に縮小することに成功した。第2フェーズでは装置の基板ボードまで光でつなぐことでサーバの電力消費を8分の1に抑えようとしている。
遅延を200分の1に抑えた第1フェーズの光通信技術はNTTが2023年3月から「APN IOWN1.0」として商用化を開始しており、さらに2024年12月には「All-Photonics Connect (APC) powered by IOWN」として、APNの伝送容量を100Gbps(毎秒100ギガビット)から800Gbpsへと8倍に拡大した。第2フェーズでは装置内のボードまで光で接続する必要があり、そのプロトタイプは大阪・関西万博のNTTパビリオンで紹介され、電力消費を従来の8分の1に抑えることに成功した。ただ目標である125倍の伝送容量を実現するには装置内の半導体チップまで光接続する必要があり、それにはまだ技術開発が必要だ。
NVIDIAなど米国勢が光技術に名乗り
実は光電融合デバイスの開発は、米国のIT企業も着手している。通信用半導体などを製造するBroadcomは光電融合デバイスの「Co-Packaged Optics」(CPO)技術を使ったイーサネットスイッチを2024年3月に提供開始したことを明らかにしており、GPU最大手のNVIDIAも同じ3月にCPO技術を使ったネットワークスイッチを発表した。NVIDIAはIOWN Global Forumのメンバーだが、実際の商品化となるとメーカー各社の技術力や資金力が問われることになる。
こうした新たなライバルの登場についてIOWN Global Forumのボードメンバーを務める米Accentureのチーフ・ストラテジー・オフィサー、ジェファーソン・ワング氏は「新たなプレーヤーの登場は光技術に対する人々の認知度をむしろ高めることになる」と指摘、「ライバルの存在はいい意味で重要だ」と強調する。
今後に向けてのもうひとつの大きな課題は、IOWNの活用が経済的にどれだけ新たな価値を創造できるかという採算の問題だ。今回のダラス会議では建設現場や倉庫・配送業などにIOWNを活用しようというPOCも関心を集めた。超低遅延のAPNならば建設機械を遠隔操作したり、建設現場に光回線を敷設して定期点検などを遠隔で行ったりできる。倉庫・配送業でもロジスティクスをネットワークでリアルタイム管理したり、AGV(無人搬送車)を正確に走らせたりすることができるようになるが、そこで問われるのが投資額とのバランスだ。
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