AIを経営会議に“同席”させる 富士通が始めた、“意思決定を先送りさせない”方法とは?(2/3 ページ)
富士通は“人間レス”を前提とした業務オペレーションの再設計と、AIの恩恵を最大限に享受するための“AI-Ready”なデータ整備、そして組織文化の変革を目指している。
経営層の意思決定の場にもAIを導入
営業やマーケティングの現場でもAI活用は進んでいる。社内で開発された「Go-Teian」という提案書の自動生成や資料作成を支援するアプリケーションは、すでに多くの部門で導入が進んでいる。福田氏が率いる事業部門では、全員参加でAIを業務に組み込む実践型研修を月に1度の頻度で実施。「早く人間が最後の確認だけすればよい状態にまで持っていきたい」という。
他にも人事領域では、従業員向けサーベイの分析にAIが活用されている例が紹介された。
かつて富士通で従業員サーベイを実施すると、「どうせここに書いても、何も変わらないんでしょう」という声が最も多かったという。従業員が11万人以上も在籍しているのだから、全ての自由記述を目視で確認するのは現実的ではない。だが今では、「20代・東京勤務・エンゲージメントスコア65以下の人たちのコメントをまとめて」とAIに依頼すれば、1分以内にサマリーを出力できるようになっている。
さらに、経営層の意思決定の場にもAIが導入され始めた。会議中の発言をリアルタイムで解析し、自律的に判断して関連するデータを表示するAIエージェントを、経営会議に参加させているのだ。従来であれば「いやぁ、良いご質問ですね。来週までに調べて、改めて報告します」とお茶を濁すこともできたが、その場で事実を突きつけられれば、即応せざるを得なくなるはずだ。まだデータの整備が不完全な領域もあるとはいえ、ファクトをもとに議論できるようになったことで、意思決定の質とスピードが向上した実感もあるという。
福田氏は、富士通グループでDXコンサルティング事業を展開するRidgelinez(リッジラインズ、東京都千代田区)が定義する「AI成熟度モデル」を取り上げ、富士通の現状を「Level.3からLevel.4に足をかけているところだ」と評した。つまり、AIによる特定業務の省人化・自動化が完了に近づき、組織横断で業務プロセスを変革するフェーズに入ろうとしているわけだ。
AI成熟度モデル
Level.1:個人作業の支援
- 情報収集・調査・分析
- 資料作成・コーディング
- 添削・校正チェック
- マルチタスク管理
Level.2:社内共通業務・作業への組み込み
- 社内コミュニケーションツールへの組み込み→問い合わせ業務の自動化+会議の議事録自動生成
- Web・社内向けナレッジのリサーチ→社内に蓄積された情報の検索・閲覧・利活用
Level.3:特定業務での活性深化・高度化
- リサーチ業務の自動化→社内外情報へのアクセスによる探索機能の強化
- 人事評価支援
- 申請手続き・認定業務の自動化
Level.4:業務運用ルールの自動運用(Co-Pilot化)/業務プロセス変革(省人化・自動化の適用拡張)
Level.5:業務運用の完全自動化
- 業務機能の刷新
- 要員再配置
- 組織再編成
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
Geminiを業務で使いこなす! Google Cloudが指南する「プロンプト入力」4つのポイントは?
GoogleのAI「Gemini」を業務で使いこなすには──? Google Cloudの担当者がレクチャーした。
経営者「出社回帰で生産性向上!」社員「むしろ逆!」──この深刻なギャップはなぜ生まれるのか
“出社回帰”に動く企業が増えている。「出社回帰」させたい企業と、リモートワークの権利を手放したくない社員。両者のすれ違いはなぜ起きるのか。
【今すぐ使えるプロンプト紹介】生成AIに「議事録作成」を丸投げする方法
面倒な議事録作成、AIに丸投げする方法は?
DXの“押し付け”がハラスメントに!? クレディセゾンのデジタル人材育成を成功に導いた「三層構造」とは
昨今は人材獲得に苦戦する企業が多く、文系人材をリスキリングなどで育成し、デジタル人材に育てようとする動きが活発化しているが、クレディセゾンのCDOは「『トランスフォーメーションハラスメント』には要注意だ」と警鐘を鳴らす。「トランスフォーメーションハラスメント」とはどんなものなのか。DX時代の人材育成の本質とは何か。
AI導入のカギは「行動変容」 ソニーグループが実践した、“現場が使いたくなる仕組み”とは?
ソニーグループは2023年から全社員の生成AI活用を推進し、わずか2年で5.7万人が日常業務で使う体制を整えた。同社では、日々15万件の推論が実行されている。