顧客のメールにAIが返信実行、任せて本当に大丈夫? Gmailでもやらないことを国産法務テックがやるワケ:「下書き止まり」ではない(4/4 ページ)
AIが間違った情報を送ったらどうなるのか。不適切な表現で顧客を怒らせたら――? 営業の現場でAIは本当に人間の代わりを務められるのか。LegalOn Technologiesに取材した。
「メールを書く」が営業の仕事でなくなる日
メール返信は、あくまで入り口だ。
吉田氏が描くのは、営業プロセス全体のAI化である。商談が終われば、AIが議事録を生成し、内容を理解して顧客へのフォローメールを自動で送る。優秀な営業が必ず行う「ネクストアクション」の設定も、AIが提案する。「次回までに当社は提案資料を作成し、お客さまは社内で予算承認を取る」といった合意形成を、メールで確認していく。
さらに踏み込んだ機能も開発中だ。商談の内容から、受注を阻む「懸念」を検知する。価格が高すぎないか、導入が複雑すぎないか、他社との比較でどうか。AIが懸念を察知し、対応が必要な場合は営業担当にアラートを上げる。簡単に解消できる懸念なら、AIが自らメールで対処する。
「我々の営業ノウハウを本当に組み込んだプロダクトにしたい」。吉田氏が目指すのは、同社が積み上げてきた営業の知見をAIに学習させたものだ。標準的な提案プロセス、よくある懸念への切り返し、営業の「秘伝のタレ」と呼ばれるような殺し文句。受注までの勝ちパターンをAIに教え込むことで、新人営業でもベテランのような対応ができるようにする。
では、人間の営業は何をするのか。吉田氏の考えはこうだ。「全ての営業が、ドメインエキスパート、アカウントエグゼクティブのような姿になる」。メールを書く時間を、顧客を深く理解する時間に充てる。業界知識を深め、顧客の課題に精通する。AIが定型業務を担い、人間は顧客との関係構築や戦略立案に専念する。
角田社長は、さらに大きな可能性も見据えている。「AIは言語の壁を取り払うことができる」。日本企業が海外展開する際、営業人材の確保は大きな障壁だ。しかしAIなら、言語を問わず営業活動を支援できる。良い製品を作っても海外に届けられない。その状況を、AIが変えるかもしれない。
11月から始まるクローズドベータには、すでに複数の企業が関心を示している。「実行までしてくれるプロダクトは、まだ市場にない」と吉田氏は言う。多くのAIツールはサジェストまで。DealOnは、その先の「遂行」まで踏み込む。
AIによる営業メールの自動返信が、どこまで実用に耐えるのか。11月からの外部企業でのトライアルが、その答えを示すことになる。
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