2015年7月27日以前の記事
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「厳罰化でミス防止」は失敗の始まり 組織がエラーを防ぐためにできる、唯一のこと河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

マネジメントの本質を“現場の目”で見つめ直した学者、ヘンリー・ミンツバーグ。 ミンツバーグの主張の一つである「エラーは罰すべきものではなく、学びの源である」を基に、長浜市の事務ミス厳罰化について考えてみましょう。

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「だって人間だもん」

 この視点を「チーズ」に見立てたのが、安全性の研究者ジェームズ・リーズンが提唱した「スイスチーズモデル」です。

 このモデルでは、組織がミスを防ぐために設けるルール、マニュアル、チェック体制、研修、管理職の監督など「防護層」をチーズの輪切りに見立てます。通常、これらの防護層にはそれぞれ「穴」(不備)がありますが、穴の位置はバラバラです。

 事故や重大なミスは、たまたますべての層の穴が一列に並び、危険因子が通り抜けてしまったときに起こります。つまり、職員の「単純ミス」は、このモデルにおける最後の層の穴にすぎず、長浜市が指摘した「組織意識・連携不足」などは、まさに組織的な防護層の穴です。

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提供:ゲッティイメージズ

 ミスの再発防止策は、「ミスを正直に報告した職員」こそが、組織への貢献者として認められ、承認されるという文化を築くことから始まります。職員が正直に報告できる環境を作ることが、結果として市民の不利益を最小限に食い止める唯一の道なのです。

 市長は、厳罰化する一方で、「職員の前向きな姿勢を評価するため、人事評価優秀者の賞与の上位区分該当者を従前の2%から10%に引き上げる」としています。ですが、これは「罰則」と「ご褒美」を組み合わせた、「アメとムチ」による管理の強化に他なりません。

 是非とも、市長には「だって人間だもん。ミスしちゃうことだってある」と理解し、職員に経営の三原則である「共感・信頼・敬意」を示してほしいです。企業の経営層や人事部門は、今回の長浜市の一件を反面教師にして、自社が「ミスを正直に報告できる」環境かどうか、今一度見つめ直してください。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) など。

 新刊『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)発売中。


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