なぜ、運転がワクワクする音になるのか? ヤマハ3輪EV“音づくりの秘密”に迫る:インタビュー劇場(不定期公演)(3/5 ページ)
ジャパンモビリティショーで、ヤマハの3輪EV「TRICERA proto(トライセラ プロト)」が登場した。3輪手動操舵(3WS)の特徴とは何か。エンジン音の開発に携わる担当者に話を聞き、音の奥深さに迫った。
スピーカーから”疑似エンジン音”を出す
土肥: 次に、トライセラ プロトの音について話を聞かせてください。一般的なエンジン車と違って、「キュイイイイイン」と聞こえてくる。他のEVもそのように聞こえることがあるのですが、このクルマの場合、それともまたちょっと違う。低音がやや響いてくる印象ですが、どのように開発したのでしょうか?
田中: 私は4輪車を担当していて、運転中にドライバーが「心地よい」と感じる音とは何かを追求しています。さまざまな音源を開発するだけでなく、車両に搭載するサウンドデバイス(音を電子的につくったり制御したりする装置)の開発に携わっています。
EVの場合、エンジン音は静かなので、走っている感覚がどうしても乏しくなる。ということもあって、加速時に人工的に音を出すことによって気持ちよさを演出したり、車種ごとのブランドイメージをつくったりしています。スピーカーから”疑似エンジン音”を出す、といった仕組みですね。
もう詳しく説明すると、クルマには4気筒と10気筒のエンジンがある。10気筒は1回転当たりの点火回数が多いので、高音域が出る。一方、4気筒エンジンは、点火回数が少ないこともあって、低音が出る。
土肥: 10気筒のエンジンは「シュイーン」「シャアアアア」といった音が聞こえてきますよね。一方、4気筒は「ドドドド」「タタタタ」といった脈打つイメージです。
田中: ですね。では、4気筒のエンジンで、10気筒のような高音を出すにはどうすればいいのか。エンジン自体は変更できないので、音を変えなければいけません。サウンドデバイスを搭載しているクルマを運転しているとき、ドライバーは「エンジン音を聞いている」と思っているかもしれませんが、実際は「スピーカーから生成された音」を聞いているんですよね。
では、トライセラ プロトの場合、どのようにして音をつくっているのか。一般的なEVの場合、甲高い音が響きますが、このクルマを見たとき「同じような音にすれば、雰囲気に合わないかも」と感じました。キビキビ走行するので軽快さを感じられると同時に、アクセルを踏み込めば力強さを感じられる。そうした点を踏まえて、音づくりを始めました。
土肥: その音は、ゼロからつくるのでしょうか? それとも、音のレシピがたくさんあって、その中から選ぶといったイメージでしょうか?
田中: たくさんのレシピがあって、その中からイメージに近いものをチョイスする。そして、足りないと感じた音源をつくるといった具合ですね。まずは自分で音をつくってみて、周囲の人に聞いてもらう。そして、意見をもらう。その後もブラッシュアップを重ねて……あ、いまもコンセプトモデルなので、まだ完成していません。今後も、修正を加えていって、完成させる予定です。
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