2027年度末までに、累計300万時間の業務削減へ クレディセゾン「CSAX戦略」を実現する4つの柱
DXの先進企業であるクレディセゾンは2025年9月、「CSAX戦略」(Credit Saison AI Transformation)を発表した。戦略の全体像について、同社取締役兼専務執行役員 CDO兼CTOの小野和俊氏が解説する。
本記事の内容は、ウイングアーク1st(東京都港区)が11月11〜12日に開催した「UpdataNOW25」内で実施されたセミナー「300万時間の業務削減へ-全社員のAIワーカー化を目指すクレディセゾンのAI戦略『CSAX戦略』」の内容を要約したものです。
2019年からDXを推進してきたクレディセゾン。内製開発体制を築き、ソフトウェアによる業務自動化やノーコード・ローコードを活用した市民開発者の育成に取り組んできた。その結果、2019年比で累計161万時間の業務時間削減を実現した。
DXの先進企業である同社は2025年9月、「CSAX戦略」(Credit Saison AI Transformation)を発表した。戦略の全体像について、同社取締役兼専務執行役員 CDO兼CTOの小野和俊氏が解説する。
CSAX戦略を支える4つの柱
CSAX戦略における第1の柱は、全社員を「AIワーカー」にすることである。小野氏はAIワーカーを「AIを自然に使いこなし、日常の仕事をレベルアップさせる社員」と定義する。クレディセゾンでは全社員3700人のうち、内製チームは200人程度であり、営業、コールセンター、バックオフィスなど大多数の総合職の生産性をどう上げるかが課題だった。
そこで同社は、OpenAIの全面サポートのもと、社長以下全役員を含む315人を対象にChatGPT Enterpriseのパイロット導入を実施した。その結果、定量的効果では、年間2000時間の全体労働時間のうち、8.5%に当たる170時間の業務がAIに代替可能と判明。費用対効果(ROI)は目標500%のところ、954%を達成した。定性的効果では、経営陣・部長陣の75%がAIを「無くては困る」と評価。企画部門では95%の人が「仕事がクリエイティブにできる」と回答した。
小野氏は「ROIは、まず足元の説明責任を果たすために取ったが、本質的に重要なのは、社員の能力向上や仕事の満足度といった定性的な効果にある」と話す。これらの成果を受け、同社は9月から全社員を対象にChatGPT Enterpriseを導入した。
CSAX戦略の推進には、全社員AIワーカー化に加え、環境整備やガバナンスも欠かせない。そこで小野氏は、第2の柱として業務の再設計を挙げる。AI登場以前の常識で設計された全事業・全社員の業務を、「AIがある前提」で根本から見直し、再設計するのだ。小野氏は、競合調査や過去事例の収集、決済書類作成などの時間が6割削減可能だと見込む。
第3の柱が、AIフレンドリーな情報・システムだ。ドキュメントやシステムを、人間だけでなく、AIや大規模言語モデル(LLM)が読みやすい構造に整備する。「例えば、資料内の注釈をページ下部ではなく近くに書き、誤読を防ぐなどが挙げられる」(小野氏)。第4の柱はAIガバナンスの確立だ。全部門にCSAXリーダー(AI推進役)を必ず配置し、全社統括部門(COE)や経営会議と連携させる三位一体の推進体制を構築。AI開発指針やポリシーの策定を進めている。
CSAX戦略を開始する際、小野氏はまず経営陣向けにキックオフを実施。「社長こそが一番AIを使い倒す人になるべきだ」と訴えた。実際に経営陣もAIを使い、その効果を体験したことで「トップダウンでの推進が大きく進んだ」と小野氏は振り返る。また、社長は自身がAIを活用する中で、「自分も含め、40〜50代のシニア社員がAI活用することが戦力になる」と発言。ベテラン層の長年の経験がハルシネーションに対するレビュー機能として働き、AIの暴走を防ぐガードレールとなると指摘したという。
同社は2027年度末までに、累計300万時間の業務削減を目指す。目標達成に向け、小野氏は「全社員がAIを前提に仕事を行うAIワーカーとして、仕事の質を変えていくことが重要である。トップと現場のどちらか一方が『ポーズ』にならず、全員が体験を通じて自分事化することが、CSAX成功の鍵であると」とした。
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