2015年7月27日以前の記事
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「1億円の損失」すら成長の糧に サイバーエージェント流、若手を育てる「抜擢と敗者復活」の成長モデル

サイバーエージェントはどのように人を育ててきたのか。巨大組織でありながら少人数単位での経営を可能にする「小集団経営」も、社員の顔が見える環境を生み出している。常務執行役員CHO曽山哲人氏が語る「組織を成長させ続ける仕組み」をひも解く。

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 創業者・藤田晋社長が退任し、会長に就任する人事を発表したサイバーエージェント。同社は、社員数20人から8000人規模へと急拡大しながらも、社員の士気を高める組織文化を失わずに成長を続けてきた。

 現在、日本企業の経営課題として挙がっているのが「次世代の幹部が育っていない」状況だ。

 サイバーエージェントはどのように人を育ててきたのか。その背景には前編【サイバーエージェント流「抜擢の経営学」 組織を成長させ続ける“言行一致”の設計図とは?】で紹介した藤田氏を中心に徹底してきた「言行一致」の経営姿勢、そして人材を早期に「抜擢する」カルチャーがあった。

 巨大組織でありながら少人数単位での経営を可能にする「小集団経営」も、社員の顔が見える環境を生み出している。後編でも、同社の常務執行役員CHO曽山哲人氏が語る「組織を成長させ続ける仕組み」をひも解く。


曽山哲人(そやま・てつひと) サイバーエージェント常務執行役員CHO。上智大学文学部英文学科卒。1999年サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。採用・育成・活性化・適材適所・企業文化など人事全般を統括。また、サイバーエージェントが設立したプロダンスチーム「CyberAgent Legit」のオーナー。同チームはプロダンスリーグ「D.LEAGUE」で活躍し、2022〜2023シーズン以降のシーズン3連覇の実績も持つ。12月8日に開催する次世代のロールモデルとなるCxOを選出する「Japan CxO Award」の審査員を務める

「肩書はただ」の抜擢文化――若手を鍛える仕組みとは?

 サイバーエージェントの人材育成を語る上で、欠かせないのが「抜擢」の文化だ。創業者であり社長である藤田氏の「肩書はタダ」という考え方のもと、若手を大胆に重要ポジションに任命してきた。新卒1〜3年目の社員を、子会社の社長や事業責任者に任命する事例も珍しくない。2年目でマネージャー、経営者となる若手も毎年輩出している。

 「人は肩書を与えられると変わります。特にやる気のある若手なら、社長や事業責任者といった肩書を持つだけで一気にスイッチが入り、本気で成果を出そうとします」

 抜擢は形式的なものではない。実際にキャッシュの判断や意思決定を担わせる。本物の経営経験を通じて、人材の成長を加速させる狙いだ。抜擢の基準は明文化されていないものの、こう説明する。

 「まず意思表明している人、つまりやりたいと言っている人を見ます。次に業績を上げている人、目標を達成している人を候補にします。人を巻き込める能力、人間性、人望も重要な基準です。基本的には本人の意思を尊重し、その人の才能が最も生かせる方向に導きます」

敗者復活で挑戦文化を支える

 もう一つの柱が「敗者復活」の仕組みだ。サイバーエージェントでは、挑戦と失敗を繰り返す中で「セカンドチャンス」の文化を育んできた。曽山氏はそのプロセスを「3ステップ」で説明する。

  • ねぎらう ― まず挑戦したこと自体を認め、感情に寄り添う。
  • 本人の希望を聞く ― 次に進みたい方向を尊重し、配置を決める。
  • フォローする ― 面談や声掛けを継続し、心が折れないよう支える。

 「人材マネジメントは感情が基本」と曽山氏が語るように、抜擢により新規事業などに挑戦し失敗しても、まずは「よくやった」と感情面でねぎらうことが大事なのだ。次に本人の希望を尊重し、元の部署への復帰や新たな挑戦を選ばせるという。そして定期的にフォローアップし、離職を防ぎつつ再起を支援するのだ。

 再挑戦して成果を出せば、社内報などで光を当て「敗者復活の事例」として共有する。これにより、挑戦を奨励する文化が言葉だけでなく実例として組織に根付く。

 「敗者復活の事例がなければ、いくら経営者が『失敗を許容する』と言っても社員は信じません。復活のストーリーこそが文化をつくるのです」

失敗が人を育てる 1億円の損失を出した経験

 「失敗に目を向けるのではなく、他の人がやっていないことにチャレンジしたことに目を向けるべきです。失敗した人は、同じ失敗はほとんどしない。その経験こそが財産になるのです」

 曽山氏自身も営業のトップだった時代、顧客とのトラブルで1億円の損失を出した経験がある。しかし、経営陣の支えで取引を継続し、結果的に関係を強化。失敗から大きな学びを得た。こうした「失敗から学び、再び挑戦する」姿勢こそが、次世代のリーダーを生み出す原動力になっている。

小集団経営――8000人を「80人単位」で束ねる

 「社員8000人をひとつのピラミッドで統括しようとしても、顔が見えなくなります。そこでわれわれは“80人規模の単位”で経営しています」

 これが、曽山氏が語る小集団経営だ。

 サイバーエージェントが採用する「小集団経営」は、抜擢から生まれた100社を超える子会社や事業部ごとにリーダーを立てる。80人前後の組織単位で運営する手法なのだ。事業ごとにビジネスモデルは異なるものの、トップ人材がバリューを体現し、業績を出す限り、その集団は自律的に成長する。

 この手法によって、巨大組織であっても「顔が見える関係性」を維持できるという。大企業病に陥りやすい階層化を避け、現場の機動力を保つことができるのだ。大企業では「社長がどんな人か社員が知らない」ということをよく耳にする。一方サイバーエージェントは、小集団経営によって、各単位でトップがバリューを体現する仕組みを整えているのだ。社長に会う機会がなくとも、価値観や方針は組織全体に浸透している。

 「藤田に会ったことのない社員は大勢いますが、それ自体は問題ではありません。大事なのは経営と現場の言行一致が保たれているかどうかです」

 サイバーエージェントが20人から8000人へと成長する中で文化を維持できた理由は、制度や仕組みそのものよりも「経営陣の言行一致」と「小集団経営による顔の見える関係性」にあった。抜擢とセカンドチャンスを通じて人材を鍛え、敗者復活の事例を積み重ねる。経営陣自らが挑戦し、バリューを語り続け、実践してみせる。こうした積み重ねが挑戦文化を支え、持続的成長を可能にしているのだ。

 日本企業が直面するリーダー育成や組織文化の課題に対し、曽山氏の経験は一つの処方箋を示している。それは「言葉ではなく行動で示すこと」。シンプルだが、実行し続けるには覚悟が要るはずだ。

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