購買データがなくてもファンは作れる サントリー流「マイルドCRM」の実力とは?(1/2 ページ)
メーカーであるサントリーは自社で購買データを持たないため、一般的なOne to OneのCRM(顧客関係管理)は難しい。そこで同社は購買データではなく、行動データや意識データなどを活用しアプローチする「マイルドCRM」の概念を採用した。
本記事の内容は、LINEヤフーが11月17日に開催した「LINEヤフー BIZ Conference 2025」内で実施されたセミナー「LINEヤフーと描く、AI時代のサントリー流『広さ×深さ』マーケティング最前線」の内容を要約したものです。
メーカーであるサントリーは自社で購買データを持たないため、一般的なOne to OneのCRM(顧客関係管理)は難しい。そこで同社は購買データではなく、行動データや意識データなどを活用しアプローチする「マイルドCRM」の概念を採用。売り上げ拡大に加え、企業やブランドに対する「共感獲得」を重視し、緩やかなファン化を促す施策をとっている。
前編では、サントリーが取り組む「統合プランニング」施策について解説した。後編では「共感獲得」を重視する施策や、AI活用について掘り下げる。
緩やかなファン化、具体的にどうする?
マイルドCRMの主軸となるのがLINEだ。同社戦略推進・CRM部の宮元尚哉課長は「アプリストアからデバイスに直接インストールして使うネイティブアプリは、ダウンロードするハードルと維持コストが高いため、開発を断念した。LINEは利用者も多い上、LINEミニアプリなどを活用すれば、ネイティブアプリと遜色ない体験提供が可能だ」と説明する。
LINEを活用した具体的事例をいくつか紹介しよう。1つ目がビンゴキャンペーンだ。過去の飲用履歴に基づき、それぞれに最適化されたビンゴカードを生成。普段飲まない未体験商品をあえてビンゴの対角のマス目に配置し、購入を促した。
「応募数は過去の類似施策の2倍以上という結果になった。加えて体験したユーザーの46%が『普段買わない商品を買うきっかけになった』、23%が『これもサントリーの商品かと気付きになった』と回答。楽しみながら接点数を増やし、ファン化を促進したといえる」と宮元氏は評価する。
2つ目がLINEミニアプリ「ノンデネ」だ。200種以上のスタンプとともに酒類ギフトを送り合えるサービスで、決済もLINE内で完結する。スタンプは「乾杯しよっ」「無理しないでね」など日常で使いやすい内容をそろえたことで、ユーザーの共感を獲得。詳細なデータは公表できないとしつつも、想定以上の利用実績を記録したという。
3つ目がオフラインイベントとの連携だ。イベント開催エリアのLINEユーザーに事前告知し、来場者にはLINE登録で割引を提供。イベント後もLINE配信でサンプリング情報などを配信した。リアルな飲用体験をイベントという「点」だけではなく、継続的なコミュニケーションという「線」でつなぐことで、リピート飲用への仕掛けを作る狙いだ。実際、イベントでの飲用体験者は、その後のサントリー商品の購入率が市場平均よりも高いことが分かったという。
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