購買データがなくてもファンは作れる サントリー流「マイルドCRM」の実力とは?(2/2 ページ)
メーカーであるサントリーは自社で購買データを持たないため、一般的なOne to OneのCRM(顧客関係管理)は難しい。そこで同社は購買データではなく、行動データや意識データなどを活用しアプローチする「マイルドCRM」の概念を採用した。
忘年会の店選び、乾杯の音頭を相談できるAIチャットボット
同社はこれからのAI時代を見据えて、宣伝領域とCRM領域でのAI活用も同時並行で進めている。宣伝領域ではまず、過去の大量な広告の出稿データをAIに学習させた。人事異動などで経験が浅い担当者が増えても、AIを併用することでプランニングの難易度を下げ、精度と効率を担保する狙いだ。
また、AIを使って制作コストと工数を抑えつつ、多種多様なパターンのクリエイティブを生成する実験「無限桃太郎」を実施。昔話の桃太郎をベースに、人見知りの桃太郎や乗り物好きの桃太郎など、多角的なパターンをAIで生成。クリエイティブ制作のノウハウを蓄積している。ただ、サントリーホールディングス コミュニケーションデザイン部 宣伝部の野口光太課長は「『人の心と感情を動かす』というコアな部分は人が考えるべきである」と強調する。
CRM領域では、LINE公式アカウントとAIエージェントを組み合わせた取り組みを進めている。AIチャットボット導入は「商品・企業情報を間違ってはいけない」というリスクや、「予定調和的で面白くない」という課題から、社内調整が難航していた。
そこで、フリーな会話ではなく、企業特有の強みを生かしたAIにすることで、リスクと面白さのバランスを取る方向に。12月は忘年会シーズンということで、ユーザーとの会話を通じて最適な飲食店を紹介し、さらに乾杯の挨拶まで考える機能を「大人サントリー」LINEアカウント内で追加予定だ。宮元氏は「購買データがない中、飲食店の飲用データを蓄積する起点とする狙いもある」と説明する。
今後について、両氏は「CRM領域で得られたファンや飲用に関するデータ・知見を宣伝領域へフィードバックし、統合的なコミュニケーション戦略をさらに進化させる必要がある」と強調した。サントリーが取り組む2軸のマーケティング戦略の今後に注目だ。
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