仕事を休んでリスキリング、「人手不足で無理」は本当? 企業に求められる“発想の転換”とは(2/3 ページ)
10月に新設された「教育訓練休暇給付金」制度により、注目が集まる企業の“サバティカル休暇”制度。そもそも、長期休暇制度の導入は企業にとってどんなメリットがあるのか。代替人員は本当に確保できないのか──健康社会学者の河合薫氏に見解を聞いた。
「代わりがいない」は思い込み?
実際に長期休暇制度を運用している企業の1つが、2022年に「キャリアデザイン休職」制度を取り入れたJR東日本だ。
同制度は、最長2年の無給休職を可能にする制度で、私費就学やワーキングホリデー、資格取得のための実習、育児・不妊治療など、「本人のキャリア形成に資すると会社が認める場合」であれば取得できる。2024年3月時点で約200人が取得した。
「社員の成長につながり、復職後に活躍してもらうことで、会社の持続的な成長にもつながる」と同社は制度の狙いを説明する。「これまでは退職しなければ選択できなかった自己啓発やキャリア形成を支援することで、離職リスクの低減につながる要素もあると考えている」(JR東日本)
制度の上で離職の必要がなく、さらに教育訓練休暇給付金により収入面での心配もなくなれば、社員側の取得のハードルは大きく下がるといえるだろう。
とはいえ、企業が実際に二の足を踏む理由として大きなものは、「人手が足りず回らない」という意見だ。しかし、これは「誰かが抜けたら社内でカバーする」という前提に縛られているためであり、「外部から補充人員を入れる仕組みを作る必要がある」と河合氏は指摘する。
「欧州では、見合ったスキルを持つパートタイム人材を外部から補充することが一般的です。仕組みをきちんと作っているので、産休や育休でももめ事は起こりません。日本では“非正規=安価”が前提になっていますが、欧州のパートタイム人材は、それだけのメリットを与えてくれるわけですから当然高給ですし、選択肢もたくさんあります」
では、結局はその国の仕組みの問題なのか。河合氏は、「(日本は)国の姿勢が曖昧だ」と指摘しつつ、企業のトップ層における意識改革の重要性を強調する。
必要なのは、「残った人で穴埋めしなくては」という発想を変えること──欧州のように、非正規という枠を活用するのも1つの案だ。
コロナ禍の際には、「仕事がなくなったタクシー運転手さんが、運送業を手伝う』といった協業の取り組みもあった」(河合氏)
「日本企業は『だからできない』という考え方をしてしまいがち。ですが、『できるために何をしたらいいのか』という考え方をしてほしいと思います」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
今こそ休む! 日本に“長期間休める企業”が必要なワケ
「働かせ方」の二極化が拡大している。ブラック企業の話も後を絶たないが、経営改革が進む企業では、休暇制度の充実に着手することが多い。例えばJR東日本は「全社員を対象にした最長2年間の新休職制度」を4月に設ける方針だ。日本の生産性を上げるため、筆者はこのような長期休暇が取れる企業が増えるべきだと考えている。その理由は──。
「育休はなくす、その代わり……」 子なし社員への「不公平対策」が生んだ、予想外の結果
出生率が過去最低となり、東京都ではついに「1」を下回ったことが大きく話題になっています。結婚や出産を希望する人が、安心してその未来を選べるようにするために、企業ができることは何か。「育児休暇をあえてなくした企業」の事例をもとに、社員を疲弊させない経営戦略について考えます。
ワークライフバランス重視=仕事できないダメな人? なぜ日本だけ“長時間労働”が蘇るのか
高市首相の「働いて働いて……」発言、ある経営者による「ワークライフバランスって言ってるやつで優秀なやつ1人も見た事がない」という投稿など、「過重労働を美徳化」する言葉が注目されています。こういう人たちは「忙しい自慢」が大好物。忙しい人=できる人と勘違いしているのです。
「リスキリング後進国ニッポン」で成功するために、必要な2つの戦略
国内でもさまざまなメディアがリスキリングを取り上げるようになりましたが、取組状況は諸外国に比べれば依然として遅れています。ビジネスパーソンが必ずしも勤務先に頼らず、効果的なリスキリングを行うには、どのようなことに気を付けるべきでしょうか。
