「残クレアルファード」はこうして広まった マイルドヤンキーとトヨタの“最適解”:高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)
トヨタの高級ミニバン、アルファードが人気を維持している。当初から突出して人気だったのではなく、3代目モデルのインパクトのある顔つきでヒットした。さらに、残価設定クレジットによって地方の若者にも手が届くようになり、長期的な人気につながっている。
マイルドヤンキーを満足させる、トヨタの戦略
バブル期には、アパート住まいでフェラーリを買うようなユーザーが注目されたが、今ではクルマの選び方も二極化が進んでいる。高級車や高性能車は富裕層向けに高額化し、一般のユーザー向けにはいわゆる大衆車カテゴリーに加え、カーシェアなどの所有しない選択肢も用意されるようになった。
車格でヒエラルキーが決まる構造を作り出し、それを利用してきたのが、自動車市場でありメーカー各社である。メルセデス・ベンツやポルシェのような欧州の老舗ブランドは高級路線を確立し、それを維持しているが、日本の自動車メーカーがブランドで差別化するようになったのはトヨタがレクサスを立ち上げてからのことで、まだ歴史も浅い。
したがって、これまで日本車は、単一のメーカーやブランドの中で、車格や車名によって差別化が進められてきたのである。
自家用車がぜいたく品だった時代から、より上質で高級なクルマを手に入れるフェーズに入り、それが徐々に充実していく。バブル期を経験して、消費者は性能や装備をセールスポイントとする自動車メーカーの戦略に乗って、次々と高級車を乗り継いでいったのだ。
近年、日本の自動車市場は縮小しているが、その市場の中でも人気モデルに開発資源を集中し、ディーラー認定中古車や残クレなどで中古車価格を維持することで、安定したビジネスモデルを確立した。その代表格がアルファードなのである。
トヨタディーラーは中古車拠点も設け、下取り車を整備して販売することで中古車価格を維持してきた。アルファードの時代になってからは、残価設定ローンと認定中古車を組み合わせた無敵の循環型販売を確立している(筆者撮影)
こうしたクルマを手に入れて乗り回すことで満足感を得る層(だからといってオラオラとあおり運転するのは論外だが)にとって、それが仕事のモチベーションや生活の活力の一部になっていることは紛れもない事実なのだ。
トヨタの確信犯的マーケティングはこうして確立され、日本中に残クレアルファードを普及させたのである。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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