「残クレアルファード」はこうして広まった マイルドヤンキーとトヨタの“最適解”:高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)
トヨタの高級ミニバン、アルファードが人気を維持している。当初から突出して人気だったのではなく、3代目モデルのインパクトのある顔つきでヒットした。さらに、残価設定クレジットによって地方の若者にも手が届くようになり、長期的な人気につながっている。
クルマが必要な若者にとって「手が届く」設定に
こうした傾向は以前からあった。かつてのクラウンやソアラ、マークII三兄弟といった高級車も、今で言うところの「マイルドヤンキー」と呼ばれる若者層に支持されていた。
昔は、日産もセドリック/グロリア、ローレルなどでそういったユーザーに支持されていたが、セダン人気の衰退から、あっさりと戦線離脱。幅広いユーザーに支持される柔らかな印象のデザイン路線を突き進めた。
トヨタのクラウンも「いつかはクラウン」というキャッチコピーの通り、クルマ好きの憧れであったが、ミニバンブームによりセダン人気は低迷し、SUV人気が追い打ちをかけた。この頃のクラウンは絶大なる人気を誇った(写真:トヨタ自動車)
地方の若年層ユーザーにとって、クルマは移動手段として必要なだけでなく、コミュニケーションツールであり、ステータスやアイデンティティの一部であるのだ。かつては東名阪などの大都市でも若者はクルマを所有し、乗り回して楽しんでいた。だが、現在はインターネットやスマホの普及により、コミュニケーションの手段も変わり、可処分所得の使い道も変わった。
それでもクルマが好きな層は一定数存在するし、地方では「どうせクルマが必要なら、他人よりいいクルマに乗りたい」「クルマによって自分のステータスを高めたい」という欲求も強い傾向がある。高級住宅街に高級車が並んでいるのは、資産や所得、家柄に、家屋やクルマが見合っていないと恥ずかしいという感覚から選択されてきたのだ。
そこから発展して、クルマがステータスの象徴となった。高級なクルマ、押し出しの強いクルマを乗り回している方が満足感が高いことから、クルマへの出費を優先したいと思う層が一定数出てくるようになったのだ。
彼らはアメ車のような押し出し感を備えた、それでいて信頼性が高く燃費がいい日本車が欲しい。それを日常の足として乗り回すことに満足感を感じる。そんな層が、アルファード人気を支えているのである。
憧れの存在、それでいてちょっと無理すれば手が届くという価格帯を徐々に引き上げることで、ステータス性を維持し続けられる。トヨタがうまいのは、先代のアルファードは押し出しが強いだけでなく、高級感や風格を感じさせることで法人需要もしっかりと取り込んだことだ。
これはクラウンセダンが全盛だった時代にも共通するが、法人需要は安定した収益を生み出すだけではない。道路交通の中でも上品な振る舞いで印象が良く、高級なイメージを高めてくれる。それが個人ユーザーの購買欲をそそることにもつながるのだ。
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