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なぜ、鉄道会社は「子ども」に投資するのか 小田急の施策から読み解く長期戦略(3/3 ページ)

2023年、小田急電鉄が発表した「子ども料金50円」は大きな衝撃だった。なぜ鉄道各社は「子ども」の獲得に精を出すのか?

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「選ばれる」沿線環境づくり 子ども人口が5年で減少しなかった街

 ここまで紹介した多様な施策は「子育て世代に、自社の沿線を住まう場所として選んでほしい」という経営上のアピールから生まれたものだ。

 鉄道会社による駅周辺の商業施設、保育施設、各種博物館などの設置・整備も、家族連れ誘致の一環といえるだろう。鉄道だけでなく、沿線の街づくり全体を設計できる点にこそ、大手私鉄ならではの強みがある。

 小田急電鉄沿線では、海老名駅前の開発が典型的だ。海老名駅が移転開業したのが1973年。当時、周囲は田園地帯であったため、開発の自由度が高かった。駅周辺の整備を進め、2015年から駅前施設「ViNA GARDENS」の建設に着手。住宅、オフィス、商業、教育などの複合施設という位置付けだ。海老名駅を「より住みたい・住み続けたいまち」として育てていくとしている。


ViNA GARDENS開発計画(画像:小田急電鉄「海老名駅間開発 「ViNA GARDENS」 紹介HP」より)

 そして、2016年以降、海老名駅に停車する特急ロマンスカーも順次増やしている。こうした施策と鉄道の子ども向け施策も相まって、全国的に少子化が進む中、海老名市では確かな成果が出ている。2019年に1万1384人だった同市の10歳未満の人口は5年たって2024年でも1万1443人と同一レベルを維持しているのだ(参照:海老名市「海老名市統計書」)。

 少子高齢化対策は、すぐに効果が表れるものでもなく長期的な視野が必要だが、この数字は海老名市が住みやすい町として認識されている証拠といえる。今後、さらなる効果拡大が期待されるだろう。

 つまり、子ども向け施策は、単なる鉄道におけるサービスにとどまらず、鉄道会社の沿線開発、利用客のつなぎ止めの基本方針の一つとして位置付けられているのだ。今後は、小児運賃が適用されない中学生、高校生向けの施策が展開されることも想像できる。実際、東急電鉄は2025年2月に「子育て・学生応援 東急スクラムプロジェクト」を立ち上げた。その一環として3月15日から、通学定期運賃を平均約30%値下げしている。


子育て・学生応援 東急スクラムプロジェクト(画像:東急電鉄公式webサイトより)

 2023年の運賃改定の際には通学定期運賃は据え置いたのだが、そこからさらに方針転換を行ったのだ。実は、2019年度には約649億円だった同社の定期運賃(通勤・通学の総計)収入は、2024年には約579億円にまで減少している。減収の中での値下げは、通学客を確保するための同社の思い切った策といえる。物価が高止まりする中で固定費の削減は家庭の大きな一助となる。子ども向け施策は、やがて学生、そして大人へと成長していく将来の利用客を見据えた取り組みでもある。

 少子化が叫ばれて久しい。子どもの存在は今後ますます貴重になる。将来の利用客でもある彼らに、幼い頃から親しまれる沿線づくりは、鉄道会社にとって欠かせない長期投資といえる。

著者紹介:土屋武之(つちや・たけゆき)

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1965年、大阪府豊中市生まれ。鉄道ライター。鉄道系WEB雑誌『T's Express』編集長。幼少時より鉄道に興味を抱く。大阪大学では演劇学を専攻し劇作家・評論家の山崎正和氏に師事。芸術や評論を学ぶ。出版社勤務を経て1997年にフリーライターとして独立。2004年頃から鉄道を専門とするようになり、社会派鉄道雑誌『鉄道ジャーナル』のメイン記事を毎号担当するなど、社会の公器としての鉄道を幅広く見つめ続けている。主な著書は『鉄路の行間』(幻戯書房)、『新きっぷのルール ハンドブック』(実業之日本社)など。


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