コラム
なぜ、クレカは“主役”になれなかったのか 銀行が先に広げた「組み込み金融」:エンベデッドファイナンスの誤算(2/5 ページ)
クレジットカードは本来、異業種と結び付く「組み込み金融」の先駆けだった。だが、なぜ銀行に主役の座を譲ったのか。システムの制約や業界構造をひも解きながら、CCaaSを起点に始まったクレカ業界の変化を追う。
クレカ業界の「イシュア」と「提携カード」
クレカ業界の構造を理解するには、「イシュア(発行会社)」という概念を押さえる必要がある。イシュアとは、カードを発行し、会員の審査や与信管理、請求・回収といった業務を担う事業者のことだ。
日本では三井住友カードや三菱UFJニコス、クレディセゾンなどが代表格である。イシュアになるには、割賦販売法に基づく登録に加え、PCI-DSS(カード業界のセキュリティ基準)への準拠、犯罪収益移転防止法への対応など、厳格なコンプライアンス要件を満たさなければならない。
「提携カード」とは、このイシュアと異業種企業が提携して発行するカードを指す。ANAカードであれば、ANAはブランドと顧客基盤を提供し、カードの発行・運営は三井住友カードなどのイシュアが担う。提携企業側はイシュアのライセンスを持たず、極端に言えば「カードの絵柄」と「自社顧客への加入促進」だけを担当する形態だ。
一方、イオンカードを発行するイオンフィナンシャルサービスや、かつて提携カードだった三越伊勢丹グループのエムアイカードは、自らイシュアのライセンスを取得している。提携カードより自由度は高いが、その代償は大きい。「本業がある会社がゼロからやるのは相当しんどい。相当な覚悟とコストがいるし、そのコストをペイするだけの規模感がないと維持できない」と沖田氏は指摘する。
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