2015年7月27日以前の記事
検索
ニュース

「AI上司」だけでは部下は育たない 成長のカギは人間上司の「意味付け」スキルにあり(4/6 ページ)

AI時代に突入し、人間以外の存在が人を能動的に評価できるようになった。この変化は、マネジャーの役割をどう変えるのか。そして、私たちはそれにどう向き合えばいいのか。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

人事評価とは何のためにあるのか

 ここまで人事評価におけるAI活用の現状を見てきた。AIはあくまで手段であり、活用方法を考えるに当たっては、そもそも「人事評価を行うのはなぜか?」という目的に立ち返る必要がある。

 人事評価には大きく分けて、

(1)処遇を決める:給与・賞与・昇格の根拠を作ること

(2)育成につなげる:強みと弱みを明確にして、次に何を伸ばすかを示すこと

(3)動機付けをする:頑張りを認め、意味を与え、モチベーションを維持すること

 という3つの目的がある。

 この3つの目的に対して、AIは「丸投げ」できる存在ではない。処遇も育成も動機付けも、最終的には人間が判断し、人間が伝える必要がある。

 ではAIは何の役に立つのか。それは「裏付けを提供し、マネジャーの能力を拡張する」役割だ。AIは、自分が見落としていた貢献を発見したり、自分の仮説を検証するためのデータを提示したりしてくれる存在なのだ。

人事評価においてAIが「拡張」する3つの領域

 では、AIは具体的に何を「拡張」してくれるのか。「時間軸」「視野」「客観性」の3つの領域だ。いずれも、AIがデータで「裏付け」を提供することで、マネジャーの評価能力を高めてくれる。順に見ていこう。

my
AIが拡張するマネジャーの3つの領域(筆者作成)

時間軸の拡張:変化を捉え、高頻度でフィードバックする

 評価にはさまざまなバイアスがかかることが知られているが、その一つが「新近性バイアス」だ。人間の記憶は直近に偏りやすく、期末の印象だけで1年分を評価してしまう。

 しかしAIは違う。時間軸を自在に行き来でき、1年前のデータも昨日のデータも同じ重みで参照できる。AIが時間軸を行き来できることで、可能になることが2つある。

 1つ目が「変化」の検出だ。メンバーの小さな前進を見つけて称賛する。勤務時間の増加やコミュニケーションの変化に気付き、抱え込みすぎる前に手を打つ。評価とは、突き詰めれば変化を捉えて適切にコミュニケーションすることだ。しかし人間は日々の業務に追われ、小さな変化を継続的に観察し続けるのが難しい。AIはこれを補ってくれる。

 2つ目が高頻度なフィードバックだ。頻繁にフィードバックを重ねることが重要だと分かっていても、人間だけでは実践しにくい。AIが変化を検出してマネジャーに知らせてくれれば、年1〜2回の評価面談を待たずに、タイムリーなフィードバックが可能になる。

視野の拡張:見えなかった貢献を発見する

 人間が評価する以上、どうしても主観やバイアスがかかる。目立つ成果や、自分との接点が多いメンバーの働きは印象に残りやすい。一方で、本来評価すべき貢献が視野の外にこぼれ落ちてしまうことも起こり得る。

 AIは人間の視野の限界を補い、マネジャーが直接見ていない場所での貢献、目に見えにくい形での価値発揮を、データから浮かび上がらせることができる。活用の仕方は2つある。

 1つ目がAI起点の「発見」だ。AIが可視化したデータを見て、「このメンバーはこんな貢献をしてくれていたのか」とマネジャーが盲点となっていた点に気付く。これまでは見えづらかった価値ある貢献を、データが教えてくれる。

 2つ目が人間起点の仮説の「検証」だ。「このメンバーは、最近本来のパフォーマンスが発揮できていないのでは」というマネジャーの仮説を、AIがデータで裏付けする。主観だけのフィードバックではなく、主観+データによる、より説得力のあるフィードバックができる。

客観性の拡張:ネガティブなフィードバックを建設的に届ける

 興味深い研究がある。米ミシガン州立大学らの研究(Choung, Seberger & David, 2023)は、採用選考の場面で「人間が判断した場合」と「AIが判断した場合」で、候補者の受け止め方がどう変わるかを調べた。

 その結果、AIの判断は人間の判断より「より公平」「より有能」「より信頼できる」と認識された。さらに注目すべきは、不採用という結果を受ける際、人間による判断より、AIによる判断に対して否定的な反応が少なかったことだ。

 これは採用選考の話だが、日常の人事評価にも当てはまるのではないか。どちらも「相手にとって耳の痛いことを伝える」という点では同じだ。人間から言われると「人格への攻撃」や「えこひいき」と受け取られがちな指摘も、AIがデータとして示せば「客観的事実」として受け止めやすくなる。

 具体的には、「あなたは最近パフォーマンスが落ちている」と主観で伝えるのではなく、「データを見ると、過去3カ月でタスク完了率が下がっている」という形でフィードバックする。「私がそう思う」ではなく「データがそう示している」という伝え方ができれば、受け手の防御反応を和らげ、建設的な対話につなげやすい。

my
ネガティブな評価フィードバックはAIの「得意分野」(筆者作成)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る