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黒字リストラ企業が見落としている、若者の失望 “キラキラネーム”ではごまかせない残酷な実態労働市場の今とミライ(3/3 ページ)

近年増加している「黒字リストラ」。企業はキラキラネームに言い換え、“前向きな施策”と押し出しているが、将来的には人材獲得競争で不利になる可能性がある。

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黒字リストラを若者はどう見る?

 黒字リストラに象徴される、中高年を狙い撃ちにする企業がある一方、雇用の安定を重んじる企業も存在する。日本の大手企業は二極化しつつあるように思われる。黒字リストラ企業を経営学者はどう見ているのか。東京大学大学院経済学研究科の舟津昌平講師はこう語る。

 「終身雇用は明示的に書かれているわけではなく、入社時に約束されているものでもない。専門用語で言えば『心理的契約』に当たる。よほどの悪いことをしなければずっと雇ってもらえるという契約だ。また、リストラという言葉は本来組織の再構築を意味し、解雇とイコールではないが、不況期の人員整理と連動してリストラという言葉が生まれた。つまり、クビを切らないと会社が維持できないから仕方がないものと正当化された」

 「ところが黒字リストラはそうした前提を完全に覆してしまう。企業としては危なくなる前に実施するといった言い方をしているが、企業経営から見れば合理性はあっても、従業員にとっては、業績が順調なのにクビを切られることは心理的契約を一方的に破棄され、無形の信頼が崩れた状態といえる」

 終身雇用という心理的契約の破棄は、会社のブランドにも影響する可能性がある。世間では終身雇用は終わったと言われることも多いが、舟津氏は「いつまでも同じ会社にいないとしても、『終身雇用はない方がよい』と思っている従業員は多分いない」と話す。

 例えば、ある会社が「必要なくなれば削減の対象になる」というシビアな仕組みを選んだとする。一方で「給与はいいし、20代でも実力があれば昇進できる会社」と求職者に評価されると、当然、それを望む優秀な人材が、会社の文化をよく調べた上で入社してくるようになる。しかし、その場合に「入社してくる人」や「会社に残った人」がどう動くのか、会社は洞察する必要がある。

 なぜなら、この仕組みは「優秀な人ほど実績を作って次へ抜けていくシステム」に変えたということであり、実は会社側に「選ぶ権利」がないことを意味するからだ。会社が必要なくなった社員を削減できるのと同様に、「会社が努力して採用した優秀な人材もまた、より良い条件を求めて抜けていくことを許容したに等しいのではないか。結果として、会社はこれまで以上に激しい人材獲得競争にさらされることになるだろう」(舟津氏)

 人員削減の一方で、積極的な中途採用など“人材の入れ替え”を実施している黒字リストラ企業も少なくない。企業が「優秀な人材には定年までいてほしい」と思っていても、中途で入るのはジョブホッパーかもしれないのだ。

mz
提供:ゲッティイメージズ

 加えて、黒字リストラの影響は、これから社会人となる若者への影響も決して小さくない。舟津氏は「黒字なのに1万人を辞めさせたこと自体を、ポジティブに捉える大学生はいないのではないか。若者が会社を信じなくなり、社会を信頼しなくなることは当然かもしれない。結局、こうしたことが今後のあるべき姿を若者に見せてしまっていることに対して、私たちはもっと敏感になるべきだろう」と指摘する。

 今の若者は、企業社会に対して自身の職業人生を含めて極めて冷静に見つめていると言われる。日本企業の二極化の傾向が、彼ら・彼女らの今後の行動にどういう影響を与えるのか、注視していくことも重要だ。

著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。


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