歌舞伎町の「ショートケーキ専門店」 夜営業だけなのに、なぜ1日150人も集客できるのか?(4/5 ページ)
東京の歌舞伎町で夜だけ営業する「ショートケーキ専門店」は、立地、商品、食べ方の全てがこれまでの「ケーキ店」とは異なる特徴を持つ。ショートケーキカンパニーはどのような店なのか?
決して安くはないのに、なぜ客が絶えないのか?
ショートケーキカンパニーのケーキは決して安いわけではない。一番価格が低い定番商品でも1300円。1ドリンクと1スイーツの注文が必須のため、金額は最低でも2000円程度。特に近年は物価高の影響もあり、ぜいたく品に位置付けられるケーキにとっては不利な状況だ。
帝国データバンクが実施した調査によると、2024年度の洋菓子店の倒産件数は51件に上り、これまで最も多かった2019年度(44件)を上回って過去最多を更新している。
にもかかわらず、同店には毎日多くの客が訪れる。なぜか――そこには商品の質や接客のこだわりはもちろん、岳野氏がホストクラブの広報時代から培ってきたSNSマーケティングのスキルが生かされていた。
まず、商品の質について紹介しよう。直径10センチのケーキの表面には波打ったようなクリームが絞られており、その上にいちごやクッキー、花びらなどが飾り付けられている。サイズが小さいため、クリームを塗るだけでも一般的なホールケーキより難しく、繊細で高度な製造技術が求められる。こだわりを尋ねたところ、岳野氏は「一口目の食感」について話した。
「ホールケーキをカットした三角形のケーキって、三角の部分から食べると思うのですが、ここはケーキの中心部なのでふわふわなんですよ。外側に向かうほどざらざらな食感になっていきます。外側は焼き目に当たる、ちょっと茶色く焦げた部分なんです。カットケーキはふわふわの部分から食べ進めるので、最後に焼き目の部分を食べてもそこまで食感は気になりません。ですが、当社のケーキはホールケーキなので、全部が焼き目に当たってしまう。どこから食べてもふわふわになるよう、食パンの耳を取るように、スポンジをもう一回り小さくくり抜いて提供しています」
くり抜いたスポンジは、チョコレートをかけて「ボンボンショコラ」という新たなメニューに生まれ変わる。パフェのトッピングとして使用したり、手土産用として販売したりしている。
生クリームにもこだわっている。原料となるジャージー牛乳は脂肪分が高くコクのある味わいが特徴だが、国内での流通は限られており、メーカーと受注生産のかたちでやり取りしているという。温度変化の影響を受けやすく、クリームの絞り袋を持つ手の温度で溶け出してしまうほど扱いが難しい。最良の状態で提供できるよう、ケーキの注文が入ってからクリームを塗って仕上げている。
同店の強みは、商品の品質だけではない。テークアウトが主のケーキ店とは異なり、「目の前で食べてもらい、その反応を見る」ことを前提としたイートイン中心の業態だからこそ、元・割烹の女将として接客にも徹底したこだわりを持つ。
「お客さまとの接触回数は5回以上」という基準を設け、席への案内、ドリンクやケーキ提供、会計や感想確認の間で高級店さながらの接客を実践する。椅子を引くエスコートや、客の着席後に荷物かごを持って行くなど特別感を演出する。接客の満足度が高まれば再来店につながるとの狙いで、アルバイトスタッフにもその意図を伝え、細かな指導を行っている。
ケーキや接客の質の高さから、リピーターになる客が多いようだが、初回の来店のきっかけは「SNS」が多いという。来店客がケーキをSNSに投稿したくなる仕組みは、ケーキの提供方法にあった。
「普通のお皿ではなく、背が高いガラスのケーキスタンドに乗せて提供しています。普通のお皿だとケーキの写真を撮るのが難しいんですよね。のっぺりとしてしまって、見た目はきれいなのにそう見えにくい。ケーキスタンドだと誰が取ってもケーキが立体的できれいに撮れます。最近のSNSはショート動画など縦型コンテンツが強いので、それとの相性もいいです」
加えて、店で運営するInstagramのアカウントにはスタッフが頻繁に登場する。韓国での社員旅行の様子やケーキのクリーム装飾対決、まかない作りなど、商品とは直接関係のない投稿も少なくない。
「スタッフを出すことで、お客さまは『どんな人がケーキを作ってくれるのか』を知った状態で来店することになります。SNSで見たスタッフが店で自分のケーキを作っている様子が見られたら嬉しい。ケーキを作るスタッフはレジもホール作業もできるので、お客さんとの会話もできます。お客さまが親近感を持ってくれて、リピートにつながっています」
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