AIを使うほど、チェックできなくなる 「監督のパラドックス」が示す危機:集中連載「AIと人間の境界線」(2/3 ページ)
AIを使うほどチェック能力が衰える――。米Anthropicの調査が示した「監督のパラドックス」は、AI活用が実地経験を奪い、評価力そのものを弱める危機を浮き彫りにする。教育と企業はどう向き合うべきか。
誰も解決策を持っていない
これは確かな成果だ。だが、立ち止まって考えてほしい。自分で一度も議事録を書いたことのない人間が、AIの生成した議事録を正しくチェックできるのか。抜け漏れを見抜くには、どの情報が重要かを理解していなければならない。ニュアンスのズレに気付くには、発言の文脈を読み取る訓練が必要だ。チェックとは、経験の結晶だ。経験なきそれは、形だけの確認に過ぎない。
議事録に限らない。例えば、師匠の仕事を批評できるのは、同じ仕事をやり込んだ者だけだ。職人の世界では自明の話だ。
昨今、急速にAI化が進むコーディング(プログラムを作成)も同じ構造にある。AIが生成したコードが「動作する」かどうかは、初心者でも確認できる。しかし「これは正しい設計か」「この実装は将来も保守できるか」を問えるのは、自らコードを書き続けてきた者だけだ。
クレディセゾンのCTO・小野和俊氏は、この矛盾を率直に語った。「入社3年目まではプログラマーの生成AI利用を禁止している会社もある。自ら書く力を何らかの方法で身に付けなければ、レビューする力は決して身に付かないからだ」と。
だが、小野氏自身は禁止に踏み込まなかった。では、会社として若手エンジニアへの教育支援は、何かあるのかと問われると、こう答えた。「基本的には独学だ」。率直な言葉だが、その率直さの中に、誰も解決策を持っていないという現実が透けて見える。
小野氏はこんな話もした。最近、外資系企業の採用面接でこう問われるという。「AIにできなくて、あなたにできることは何ですか」。それに答えられなければ、採用されない。
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