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高すぎる"だけ"の目標は社員を壊す――ニデックの会計不正から何を学ぶべきか?(3/4 ページ)

ニデックの不正会計問題が大きな波紋を広げている。第三者委員会の報告書が公表され、その異常な実態が明らかになった。世の中の経営者や管理職は、この事例から何を学ぶべきか。

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「高い目標」そのものは悪ではない

 私は企業の現場に入って目標を「絶対達成」させるコンサルタントだ。「絶対達成」というフレーズを20年以上使っているせいで、「同じ穴のムジナ」と思われるかもしれない。しかし、「絶対達成」をスローガンとして掲げてきた私たちだからこそ断言できることがある。

 それは、高い目標を掲げること自体が悪いのではない、ということだ。

 大胆な目標こそが人と組織を大きく成長させる。これは多くの人、組織が経験しているはずだ。

 シリコンバレーで広く採用されている目標管理手法「OKR(Objectives and Key Results)」では、「ストレッチ目標」と呼ばれる挑戦的な目標設定が推奨されている。60〜70%の達成率で成功とみなす。100%達成できる目標は「挑戦が足りない」と評価されるのだ。

 OKRには「ムーンショット」と「ルーフショット」の2種類がある。


目標設定には2種類ある

 ムーンショットとは「月に届くほどのショット」のこと。非連続的な成長を促す野心的な目標である。現状維持を打破し、挑戦意欲を引き出す。大きな成果を追求するための目標設定だ。Googleが採用したことで広く知られている。

 一方、ルーフショットは「屋根に届くほどのショット」である。確実に達成可能なレベルの目標に焦点を合わせる。まずはルーフショットで基礎を固める。慣れてきたらムーンショットに挑戦する。この使い分けが重要なのだ(私どもがクライアント企業を支援するときは、必ずルーフショットを設定してもらうが)。

 大胆な目標を掲げるからこそ、大胆な発想が生まれる。それがイノベーションを引き起こす。ニデック自身、かつてはそのようにして世界的企業へと成長したのではないか。永守氏の「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という精神が、裸一貫から売上高2兆円企業を築いた原動力だったことは間違いない。

なぜ不正に走ったのか――ヤーキーズ・ドットソンの法則

 ではなぜ、ニデックや東芝は不正に走ったのか。

 答えは「思考停止」である。

 高すぎる目標を達成するには、本来、大胆で創造的な発想が必要だ。しかし、あまりにプレッシャーが強すぎると、人は考えることができなくなる。

 心理学に「ヤーキーズ・ドットソンの法則」がある。

 ストレスや覚醒の度合いとパフォーマンスの関係を示した法則だ。適度な緊張状態のとき、人のパフォーマンスは最も高くなる。しかし緊張が強すぎると、パフォーマンスは急激に低下する。逆にゆるすぎても、パフォーマンスは上がらない。つまり「逆U字型」の曲線を描くのだ。

 ニデックでは、

 「退任が迫ってくるだろう」

 「死ぬ気で損失を埋めてくれるのか」

 といった言葉で恫喝され続けた。この状態で「大胆な発想でイノベーションを起こせ」と言われても無理だ。人間は恐怖に支配されると、最も安易な方法に逃げやすくなる。つまり数字の操作に走ってしまうのだ。

 OKRが効果を発揮するのは、まさにヤーキーズ・ドットソンの法則が示す「適度な緊張」のゾーンにあるとき。「自信度=5(五分五分)」という絶妙な難易度設定、60〜70%の達成率で成功とみなす文化も忘れてはいけない。これらが、挑戦を促しながらも心理的安全性を確保する。

 失敗を恐れないからこそ、創造的な発想が生まれるのだ。

目標設定の「3つの原則」を押さえよ!

 では、どうすれば高い目標を掲げつつ、社員を壊さずに済むのか。以下の3つの原則を押さえておきたい。

目標の「種類」を使い分ける

 全ての目標をムーンショットにする必要はない。基礎的な業務にはルーフショットを設定し、挑戦的な領域にはムーンショットを設定する。この使い分けが組織のバランスを保つ。

達成率ではなくプロセスを評価する

 100%達成だけを「成功」とする文化は危険だ。OKRのように60〜70%の達成率でも、挑戦した過程を評価する仕組みが必要だ。結果だけを見る組織は、不正の温床になりやすい。

恐怖ではなく信頼でマネジメントする

 「やらなければクビだ」という恫喝は、短期的には効果があるように見える。しかし長期的には社員の思考を停止させ、組織を蝕む。必要なのは「失敗しても大丈夫だ」と思える心理的安全性の確保である。

 ニデックや東芝の事例が示すように、業績プレッシャーが強まると、経営者はこの基本を忘れてしまう。だからこそ、意識的に仕組みとして組み込む必要があるのだ。

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