AIの「見えない影響力」 米政府とAI企業の衝突が突き付けた問い:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
米アンソロピックがAIの用途を巡って米政府と対立し、政府の調達から排除された。AI技術の利用範囲が拡大する中で、テクノロジー企業と利用者の関係も見直されつつある。社会への影響力の大きさを直視し、どのように利用していくべきか判断する必要がある。
「見えない影響力」にどう向き合っていくのか
テクノロジーの進化は常に「利便性」と「危険性」の両面を持つ。自動車は人々の移動を革命的に変えたが、毎年多くの命を奪っている。インターネットは知識へのアクセスを民主化したが、偽情報の温床にもなった。
AIの場合、その影響が及ぶ速度と範囲はこれらの先行技術をはるかにしのぐ。軍事作戦の意思決定から、選挙における有権者の行動、職場の人間関係、さらには一人の人間の生死まで――AIはすでに社会のあらゆる分野に深く浸透し始めている。
問題をさらに複雑にしているのは、AIの影響が目に見えにくいという特性だ。兵器は物理的な破壊をもたらし、その被害は誰の目にも明らかだ。しかしAIの影響は、情報の選別や判断の誘導を通じて、静かに、しかし確実に広がっていく。
SNSのタイムラインに表示される情報も、検索結果の並び順も、すべてAIのアルゴリズムが決めている。人々は自分がAIに方向付けられていることに気付かないまま、行動や判断を変えている可能性があるのだ。この「見えない影響力」こそが、AIの最も厄介な特徴であり、規制の難しさの根源でもある。
AIは、核技術やインターネットと同様に、文明の基盤を根本から変え得る技術だ。しかし現在の社会は、その使い方を律するルールをまだ十分に備えていない。では、誰がAIの利用範囲を決めるのか。その判断を国家に委ねるのか、企業に任せるのか、それとも国際的な枠組みなどで管理するのか。もしくは、市民社会が監視の役割を担うべきなのか。
難しい議論が必要になるが、だからといって判断を先送りにすることは許されない。AIの未来は、私たちが意志を持って設計する必要がある。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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