なぜ「ヤマザキ春のパン祭り」は続くのか 5億枚超の「白い皿」を生んだ、日常に入り込む体験設計:グッドパッチとUXの話をしようか(2/4 ページ)
45年続く、ヤマザキ春のパン祭り。景品としてもらえる「白い皿」の交換枚数は2025年時点で5億9000万枚を超えた。なぜ、こんなにも長く続くのか?
パンという日常と、30点という設計
春のパン祭りの仕組みはとてもシンプルです。パンを買う。シールを集める。30点たまったら皿をもらう。それだけです。 このシンプルな構造の中で特徴的なのが、「特別ではないもの」で構成されていることだと言えるでしょう。
まず、対象商品のパン。パンは特別な商品ではなく、多くの家庭で当たり前のように食卓に並ぶものです。キャンペーンのために特別な商品を買う必要もなく、普段の買い物をしているだけで自然とシールが手元に集まる。つまり、気が付かないうちに参加している状態にあるということです。
そして、そのシールを台紙に1枚貼る。あるいは「とりあえず冷蔵庫に貼っておく」人もいるでしょう。そんな小さな行為の積み重ねによって、「なんとなく参加している」感覚が生まれます。
多くのキャンペーンでは「参加のハードルを下げる」ことが企画の肝になります。しかし春のパン祭りは、パンという日常食を対象にしているからこそ、参加のハードルが限りなく低い設計になっています。
そこに組み合わさっているのが「30点という交換ライン」です。決して低い数字ではありませんが、家庭で日常的にパンを食べていれば届く水準でもあります。頑張って集めるほどではない。けれど、何もしなければ届かない。そんな絶妙なラインに設定されています。
シールを集めるという仕組み自体も、決して新しいものではありません。学校のベルマークや、ミスタードーナツの景品キャンペーンを思い出す人もいるでしょう。日本では昔から「少しずつ集めて交換する」という参加の形が身近なものとして受け入れられてきました。いわば、鉄板の仕組みと言えるでしょう。
パンという日常の購買行動に、シールという馴染(なじ)みのある仕組みを重ねる。それだけで参加が成立する。このように商品も参加方法も、どちらも「特別ではない」。言い換えれば、奇をてらっていないし、外してもいない。だからこそ、このキャンペーンは生活の中に自然と入り込んでくるのでしょう。
そして、もう一つ触れておきたいのが「シール」というアナログな仕組みです。もしこれがアプリのポイントだったら、家族それぞれのスマートフォンの中に分散してしまいます。
冷蔵庫に貼られた台紙にみんなでシールを貼るといった、暮らしの風景があるからこそ、このキャンペーンは生活の中に根付いてきたのかもしれません。ある意味では「デジタルが唯一解ではない」ことを示す典型的な体験とも言えそうです。
そして、その体験の行き着く先にあるのが、あの白い皿です。
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