年間470万個を売った「峠の釜めし」 売上95%減の危機をどう乗り越えたのか(4/5 ページ)
創業140年の老舗・荻野屋が開発した「峠の釜めし」はピーク時には年間470万個も売れた。しかし、観光需要が大きかったがゆえに時には売り上げが95%減となった月も存在した。どのように危機を乗り越えてきたのか、取材した。
東日本大震災とコロナ禍、二度の「壊滅」
母・恭子氏から事業承継し、代表に就任したのは2012年。東日本大震災の後だった。観光バスの集客が落ち込み、資金繰りが逼迫(ひっぱく)した。金融機関との交渉に始まり、不採算店舗の閉鎖や遊休資産の売却など、苦しい決断を重ねながら少しずつ経営を立て直していった。
「ようやくめどが立ち始めたところで、コロナ禍に突入したんです」
2020年春、観光需要は一夜にして消えた。ある月の売り上げは、会社全体で前年比マイナス95%まで落ち込んだという。
高見澤氏が目の当たりにしたのは、経営と現場の意識の乖離(かいり)だった。客が来ず、売り上げが立たない。売れないものを作り続ければコストが増えるばかり。それでも社員の中には「会社に来れば給料がもらえる」という平時の感覚のまま動いている人も多いように見えたという。
「異常事態なのに平常時と同じことを繰り返している。もともと『観光依存からの脱却』は掲げていましたが、コロナを機にその切迫感が増しました」
ただ、この時期には救いもあった。外出自粛によるテークアウトやデリバリー需要の高まりで、スーパーなどからの新たな取引が増加。卸の出荷量が一時的に前年比110%まで回復した局面もあった。ECを通じた冷凍弁当やスイーツなどの販売にも取り組み、一般消費者への販路も模索した。
さらにこの時期、ひとつのコラボが話題を呼んだ。映画『鬼滅の刃 無限列車編』とのIP施策だ。SLを舞台にした作品の世界観と、SLぐんまが定期運行する横川エリアとの親和性から、イベント運営会社やJR東日本、地元自治体と連携した企画として実現した。
「無限列車駅弁」として発売されたこのコラボは、GoToトラベルの追い風に乗り、観光需要が壊滅的な状況の中で、荻野屋の明るい話題となった。
「IPコラボ」と「都内への出店」若者世代にも訴求
『鬼滅の刃』との連携により、高見澤氏はIPの可能性に手応えを感じた。若い世代への認知低下は、近年肌で感じてきたことだった。名刺交換の場では、ある年代の人はほぼ全員が「峠の釜めし」を知っている。しかし若い世代では、知らない人が目立って増えている。スキーブームなどで群馬や長野方面に馴染(なじ)みのある世代以下では、荻野屋や「峠の釜めし」との接触機会そのものが消えた影響ではないかと高見澤氏は分析する。
「知らないものは手に取らない。まずは知ってもらうことが第一歩だろうと考えました」
そこでコロナ収束後も、さまざまなIPとのコラボに取り組んだ。ただし徐々に限界も見えてきた。
「IPは販促の手段の一つで、それ自体を収益の柱にするには難しかった。人気のあるコンテンツほどライセンス費用も高く、期間も限定的です。依存せず、広告宣伝として割り切る必要がありました」
IP施策と同時並行で進めてきたのが、都内への飲食店展開だ。
荻野屋が安定した収益を得るには、観光の非日常ではなく、日常の中に需要を作る必要があると高見澤氏は考えた。2021年3月のJR有楽町駅高架下への出店を皮切りに、現在は都内7店舗を展開。有楽町ではオフィスワーカーの需要も取り込んでいる。
峠の釜めしだけでなく、群馬や長野にちなんだ料理や地酒も提供。「荻野屋を知らない若い世代」への接点づくりを図った。
しかしこちらも、円安や原材料高、人件費の上昇などが運営コストを押し上げ、都内の飲食店で採算を確保することは難しくなっている。
「2〜3年前と現在でも状況がまったく違います。コストだけが上がっていく中で、価格に転嫁できない。店舗ごとに市場のニーズに合っているかを見極めながら、今後の在り方を検討しています」と、高見澤氏は明かす。
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