「初任給40万円」より「誠実さ」が欲しい 効率化に走る採用現場が見落とす、若者の本音:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/2 ページ)
若者争奪戦が激化する中、「誠実な企業に入りたい」学生が急増しています。学生が切望する「誠実さ」の正体を考察してみましょう。
AIより「人」による評価を求めるワケ
冒頭の調査だけではなく、現代の若者は、SNSの普及により「言行一致」や「透明性」といった誠実さを非常に重視する傾向があるという指摘もあります。
私自身、大学で講義をしていて感心したのは、学生たちの真面目さ、素直さ、優しさでした。アルバイトにも、学業にも、就職活動にも「真面目に向き合う」ことが若者の共通像でした。
そんな学生たちが、厳しい就職活動を戦う中で、向上心や誠実さの大切さに気付くことも、相手=企業に「誠実さ」を求めることもなんら不思議なことでありません。24時間他者と比較され、親から期待され、誰が決めたのかも分からない「普通」や「正解」に翻弄される一方で、将来への不安を抱えるがゆえの最後の望みが「誠実」という2文字に内包されているのです。
そして、AIより「人」による評価を求めるのは、人間としての「温度感」を本能的に求めているからに他なりません。
本来、コミュニケーションとは対面で行われるものです。少々大げさに言えば、私たちの祖先は対面で他者と向き合い、五感をフル稼働して情報を共有し、共感することで互いを信頼し、つながりながら、生き延びてきました。
相手を信じ、関係を築くための回路は、私たちの体に先天的に組み込まれた「生存戦略」です。幼少期から二次元のデジタル社会で育ち、情報の「加工」にさらされてきた世代だからこそ、その基盤である「誠実さ」を、身体感覚として渇望しているのです。
成長し続ける企業ほど「手間」を惜しまない
学生の期待に応えるには、企業も「人」が主役になるしかありません。実際、その動きは少しずつ広がっています。
時事通信が国内主要100社を対象に実施した調査では、内定辞退や早期離職を防ぐため、学生と現場社員の接触機会を増やす動きが目立ちました。武田薬品工業の「配属先社員との座談会」、鹿島の「現場見学会」、三越伊勢丹ホールディングスの「接点の回数や質の強化」などは、その象徴的な事例です(参照:「内定者確保「安心感」がカギ 現場社員も懇談参加―時事通信100社調査」 2026年3月29日)。
これまで私が取材してきた成長し続ける企業に共通していたのも、採用にすさまじい「手間」をかけている点でした。どんなに忙しくても、しんどくても、現場の社員が汗をかき、未来の仲間に自分たちの実像を誠実に伝えようとしていました。
そうした「温度」のある環境で働く人々は、誰に強制されるでもなく、自らの意志で自律的に動きます。心理学で言う「組織コミットメント」が高まり、「この場所で貢献したい」という強い「行動意図」が生まれるのです。結局のところ、未来の仲間と信頼し合い、敬意を示し、共感する。そのプロセスに近道はありません。
「誠実さ」とは、効率の対極にある「手間」の中にしか宿りません。学生という未来の仲間と信頼を築くために、いま企業(大人)が流すべきは、システム構築の汗ではなく、一人一人と向き合う現場の汗なのかもしれません。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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