「顔認証」はどこまで進むのか 700億枚データと日本の現在地:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
さまざまな企業の顔認証技術が、世界各地で広まっている。日本でも、大阪・関西万博で「手ぶら決済」が実現し、空港や駅でも導入が進んでいる。利便性が向上する一方、ルール整備が後手に回っており、社会的合意の形成が課題になっている。
「顔がIDになる」世界で何が起きるのか
数年前まで、顔認証をめぐる議論といえば、プライバシー侵害に対する警戒だった。本人の同意なく顔データを収集することへの批判や、誤認識による冤罪(えんざい)リスク、民族によって精度に差が出る問題が指摘され、技術普及のブレーキになっていた。
ところが最近、風向きが変わったように感じる。市民の意識が変化し、「使う前提」での規制整備が進んでいるのだ。スマホのロック解除、空港の出入国ゲート、マンションのオートロックなど、気付けば私たちはすでに顔認証を日常的に使っている。大阪万博で「手ぶら決済」を体験した人の大半は、「管理される」感覚よりも「便利だ」という印象のほうが強かっただろう。
もちろん、監視と利便性の境界線は曖昧で、便利さに慣れた先に、“顔”というパスポートで行動がすべて記録・追跡される社会が訪れる可能性がある。700億枚の顔データが民主主義国家の法執行機関によって活用されるのであれば、テロリストや犯罪者を捕まえるための顔認証技術が、言論や結社の自由を背景に活動するデモ参加者を特定する技術にもなり得る。
一方で、便利なシステムの導入は止まらないだろう。NECは2026年3月、「NEC顔リンクサービス」を発表。一度顔を登録すれば、複数の事業者やサービスを横断して認証に使えるプラットフォームだ。ディスカウントスーパー「トライアル」での実証実験に続き、東京・麻布台ヒルズのカフェでも展開が始まった。新幹線の改札での顔認証実験も進む。
日常生活における認証作業が、すべて顔で完結できる日もそう遠くないかもしれない。マイナンバーカードの次のフェーズは、「顔そのものがID」になる世界だ。
顔認証技術がインフラとして定着した社会では、利便性と引き換えに、常に個人が「認識」される存在になるだろう。重要なのは、技術が先行し、ルールと議論が後を追う今の日本において、「社会的合意」の形成が最大の課題であることだ。
万博会場において、顔だけで決済を済ませた120万人の体験は、その議論の始まりになる。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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