「顔認証」はどこまで進むのか 700億枚データと日本の現在地:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
さまざまな企業の顔認証技術が、世界各地で広まっている。日本でも、大阪・関西万博で「手ぶら決済」が実現し、空港や駅でも導入が進んでいる。利便性が向上する一方、ルール整備が後手に回っており、社会的合意の形成が課題になっている。
積極的な中国、慎重なEU 日本は?
各国の導入状況を見比べてみると、国や社会の価値観の違いが浮き彫りになる。
例えば、中国は世界で最も進んだ顔認証社会だといえる。「天網工程」(都市部用)や「雪亮工程」(地方用)と呼ばれる国家主導の監視カメラ網に、プライバシーを軽視したデータ収集によって顔認証AIが組み込まれており、都市部のマンションでは60%以上が導入済みとされる。ただし、2025年6月に「顔認識技術安全管理規則」が施行され、10万人以上のデータを扱う企業に当局への登録を義務付けるなど、監視の拡大とルール整備が並行して進む。また、他国に情報が漏れることも警戒していると見られる。
米国では、CBP(税関・国境警備局)が全ての商業航空による入国者を対象に顔認証を導入。3〜5年以内に全空港・港湾への展開を目指している。また、冒頭のClearview AIのように、法執行機関による活用も急拡大している。連邦法の整備は遅れているが、イリノイ州やカリフォルニア州などは、先行して個人データの取り扱いに関する規制を強化している。
対極にあるのがEUだ。AI法によって、公共の場でのリアルタイム顔認証は「原則禁止」。例外はテロ防止や重大犯罪捜査などに限定されており、実施には裁判所の事前許可が必要となる。プライバシーを重要な「人権」として捉えるEUらしいアプローチだが、技術競争で後れを取るリスクもある。
日本は、中国ほど積極的でも、EUほど慎重でもない、独特の「静かなる導入」が進んでいる。2020年から全国の警察でNECの顔認証システムが本格運用され、2021年には成田空港で顔認証による搭乗手続き「Face Express」が稼働。手荷物預けから保安検査、搭乗まで顔パスで通過できる。海外に行く際に利用した人もいるだろう。
また、大阪メトロでは顔認証改札機の全駅への導入計画も進んでいる。しかし、顔認識そのものを規制する法律は現時点で存在していないので、技術の普及が先行し、ルール整備が後手に回っている。
アジアでも際立つ動きがある。シンガポールのチャンギ空港では、2026年に渡航者の95%の出入国審査を自動化する計画で、パスポートなしで出入国できる未来を目指している。中東のドバイ国際空港でも、パスポート不要の移動システムを計画中だ。
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