指示待ち部下が「自走するエース」に変わる? 主体的な行動を引き出す「コーチング質問」とは
部下から相談を受け、すぐに回答する。一見親切に見える対応だが、部下の思考力や問題解決力を奪ってしまう可能性がある。山口拓朗氏は「重要なのは“答え”ではなく“問い”を渡すこと」だと指摘する。自ら考え、主体的に動ける人材はどのように育つのか。部下の成長を引き出す「コーチング質問」と、その具体的な使い方を解説する。
この記事は、山口拓朗氏の著書『正しい答えを導く質問力』(かんき出版、2025年)に、かんき出版による加筆と、ITmedia ビジネスオンラインによる編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
部下を育てるとき、正解を教えたりミスを叱責したりするだけでは成長につながらない。大切なのは、部下本人の思考力や問題解決力を伸ばしていくことだ。
インタビュアーであり、言語化の専門家の山口拓朗氏は、そうした本人に考えさせる質問を「コーチング質問」と呼ぶ。
コーチング質問の有効な使い方と、部下に考えさせる質問の仕方を解説する。
部下から相談を受けたら使いたい「コーチング質問」
部下や後輩から質問や相談を受けたとき、すぐに答えを与えるのではなく、本人に考えさせることで、彼らの思考力や問題解決力を養えます。
この場面で重宝するのがコーチング質問です。コーチングの基本は、相手の主体性を引き出し、自ら考えて行動できるよう促すこと。「行動促進質問」とも言えるでしょう。
「コーチング質問」の代表例
以下は、コーチング質問として活用できるフレーズです。
- 「どうしてそうなったと思う?」(原因を考えさせる)
- 「この先、どうなると思う?」(未来を予測させる)
- 「どうしたら解決できそう?」(解決策を考えさせる)
- 「このプロジェクトをどうしたい?」(主体性を促す)
- 「ゴールをどこに設定する?」(目標を明確にする)
それでは、このフレーズを使った実際の会話例で見てみましょう。
部下:「すみません、発注ミスをしてしまいました。どうしたらいいでしょうか?」
上司:「まずは落ち着こう。ミスの原因は?」(原因を考えさせる)
部下:「確認を怠りました。焦っていて、ダブルチェックをしませんでした」
上司:「そうか。このままだと、どうなる?」(今後の影響を予測させる)
部下:「はい、納期に遅れが生じるかと……」
上司:「どうしたら解決できそう?」(解決策を考えさせる)
部下:「取引先に事情を説明して、早めに追加発注をかければ、間に合うかもしれません」
上司:「いいね。では取引先にはいつ連絡する?」(行動を明確に)
部下:「今すぐ電話します!」
上司:「そうしよう。それで、今後同じミスを防ぐにはどうすればいいと思う?」(再発防止策を考えさせる)
部下:「発注時にダブルチェックのルールを作ります!」
ポイントは、相談を受けた際のファーストリアクションです。
上司は目先の損失を回避しようとするあまり「今すぐに○○をしろ!」と指示してしまいがちです。
もちろん、それによって当面の問題解決にはつながるかもしれません。しかし、それでは部下は、失敗の経験を学びにつなげる機会を失ってしまいます。
ミスしたときは、人が最も成長するチャンス。このタイミングで、部下自身に「考えさせる問い」を投げかける上司こそが名監督です。
求められるのは、指示を出したい気持ちをぐっとこらえる懐の深さと、適切なコーチング質問で部下を成長へと導く力です。
コーチング質問を上手に使えば、自分の頭で考え、主体的に動ける人材を育てられます。
短期的に損失が出ることがあっても、長期的には大きな利益と成長をもたらすでしょう。
自分で答えを見つける「自己解決型質問」で部下は自走する
コーチング質問は相談対応だけでなく、相手が原因を取り違えていたり、本当の原因にたどり着けていなかったりする場面でも効果を発揮します。
例えば、思うように成果が出ない部下がいて、本人が「成果が出ないのは、頑張りが足りないから」と考えていたとします。
しかし、実際の原因は「リサーチ不足」や「信頼関係の欠如」といった別のところにあることも少なくありません。
このようなとき、上司が直接「それは違う」と正したり、自分の考えを押しつけたりすると、相手は納得できず反発や落ち込みを招いてしまうことがあります。
大事なのは、相手のやる気を削ぐことなく、自分で気付き、主体的・自律的に行動するまでのプロセスを見守る姿勢です。
このときに役立つのが「自己解決型質問」です。
質問によって相手の視野を広げ、状況を客観的に捉え直すことで、本人の中に「自分で解決策を見つけた」という納得感が生まれます。この納得こそが、前向きな行動を引き出す原動力になるのです。
相手を自己解決へと導く質問例
自己解決型質問の例を見てみましょう。
1:「そのやり方で成果が出るとしたら、どんな条件が必要かな?」
→やり方そのものではなく、その前提や条件を見直させる。
2:「第三者がこの状況を見たら、何が原因に見えると思う?」
→自分の課題を客観視させる。
3:「もし後輩から同じ相談を受けたら、どうアドバイスする?」
→アドバイザーの立場で考えることで、新たな気付きや打ち手が見えてくる。
4:「うまくいっている人と自分では、どこに違いがあると感じる?」
→成功モデルとの比較から盲点に気付かせる。
5:「今、何を変えれば、一番効果がありそう?」
→自分で改善の一手を見つけ出させる。
6:「どんな工夫をすれば、物事が好転しそう?」
→まだ眠っている発想を引き出す。
7:「以前うまくいったときと比べて、何が違うと思う?」
→過去の成功と今の状況を比べて、ズレの原因を探らせる。
8:「あえて、今のやり方を全部手放すとしたら、どんな方法が生まれそう?」
→現状への執着を外し、新しい選択肢を考えさせる。
9:「自分の能力を生かしてできることは、何かありそう?」
→強みを再認識させ、前向きな行動を促す。
このように、さまざまな角度から質問することで、部下の思考は、根拠のない自己判断から「本質的なズレはどこにあるのか?」を見つめる思考へと変わっていきます。その結果、納得感を伴う内省が生まれ、行動が前向きに変わり始めるのです。
上司の役割は、正解を押しつけることでも不正解のまま放置しておくことでもありません。問いを通じて、相手が自らの「思い込み」や「勘違い」を自覚し、自己解決へと至ること。誰かに教えられた答えではなく、自分でたどり着いた答えが、人を動かすのです。
部下に成長をもたらす「気付き誘発質問」とは?
部下に成長してもらいたいなら「気付き誘発質問」を効果的に使いましょう。
大事なのは、頭ごなしに叱るでもなく、安易に答えを渡すでもなく、問いかけを通して自分の頭で考えさせ、深い気付きを引き出すことです。
例えば、ある部下が自主的に企画を立てたものの、思うような結果を出せなかったとします。このとき、上司が行うべきは叱責ではなく建設的で思いやりのある問いかけです。
1:「そもそも、どうしてこの企画をやろうと思ったの?」
→目的や動機を振り返らせる質問。原点に立ち返ることで、当初の思いやモチベーションを再確認しやすくなる。
2:「実際にやってみて、手応えはどうだった?」
→プロセス全体を振り返る質問。「手応え」という言葉を使うことで、手応えの「良し」と「悪し」の両方に目を向けさせられる。
3:「そこから学んだことは?」
→たとえ結果が伴わなかったとしても、そこで得た学びを自覚させることで、経験を成長の糧に変えられる。
4:「その経験を次にどう生かす?」
→反省で終わらせず、前を向く姿勢を促す質問。意識を次のアクションへと向かわせられる。
5:「この企画を、ほかの部署や別のプロジェクトに当てはめるとどうなる?」
→応用力を育み、視野を広げる質問。物事を応用・転用して考える力を養える。
また、部下の多くは、悩みや不安を抱えているものです。上司にできることは、そんな部下の気持ちに寄り添い「この上司と話すと、前向きになれる」と思ってもらうことです。
部下の「気付き誘発」や「心のケア」に有効なフォローアップ質問例
以下に、部下の気持ちに寄り添ったフォローアップ質問の例を整理します。
1:「この1年で自分が変わったと感じることはある?」
→時間軸を長めに取ることで、自身の成長を実感しやすくなる。
2:「最近、挑戦したことで印象に残っていることは?」
→挑戦への自覚を促し、自信や前向きな意識を引き出す。
3:「一番苦しかった時期と比べると、今はどう?」
→分かりやすい比較軸を提供することで、自分の変化や成長に気付きやすくなる。
4:「あなたがチームに貢献できる武器は何だと思う?」
→自分の強みを再認識させて、自信と活力を高める。
5:「あなたが上司だったら、自分という部下に何を求める?」
→自分のことを客観視させることで、強みや改善点が見えてくる。
6:「あなたの行動で、助かっている人はいるよね?」
→周囲への影響という視点で、自身の価値と働く意義に気付かせる。
7:「最近、うれしかったことは?」
→ポジティブな記憶に触れることで、気分が整い、前向きになれる。
8:「イラッとしたり、もどかしく感じたりすることはある?」
→ネガティブな感情も否定せず受け止めることで、相互理解と信頼が育まれる。
9:「職場や仕事で、感謝していることはある?」
→感謝に目を向けることで、モチベーションや帰属意識が高まる。
10:「3カ月後、どんな自分になっていたい?」
→短期的な未来をイメージさせることで、自律的な行動を促せる。
問いかけの効果は、相手の性格や状況、心理状態によって大きく変わります。「どの問いを、どのタイミングで使うか」を見極め、部下に応じて柔軟に使い分けましょう。
著者プロフィール:山口拓朗(やまぐち・たくろう)
出版社で編集者・記者を務めたのちライター&インタビュアーとして独立。27年間で3800件以上の取材・執筆歴がある。現在は執筆や講演、研修を通じて言語化やアウトプットの分野で実践的なノウハウを提供。著書に『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)など。中国、台湾、韓国など海外でも20冊以上が翻訳されている。
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