経営者は「何を捨てるか考えて」――中東紛争“サイバー戦”のリアルが突き付ける、無視できない脅威(1/2 ページ)
サイバー戦やAIの悪用など、サイバー空間は“危険と隣り合わせの場所”になった。企業の経営者は、この課題にどう向き合えばよいのだろうか。
サイバー空間の在り方が変わっている。2026年に起きた中東紛争では、ミサイル攻撃と並行して、重要インフラやITサービスを狙った“サイバー戦”が確認された。平時であっても、AIを悪用する犯罪グループが企業に対して高度なサイバー攻撃を展開している。
かつて“世界を1つに結ぶ夢の技術”とされ、ビジネスの拡大を支えてきたサイバー空間は、危険と隣り合わせの場所になった。企業は、こうした世界に身を置いていることを認識する必要がある。
いま、サイバー空間で何が起きているのか。日本プルーフポイントの増田幸美氏(常務執行役員 チーフエバンジェリスト)が、テクノロジーイベント「Interop Tokyo 2026」の講演セッションに登壇して、いま経営者に求められる「発想の転換」について力説した。
本記事は、Interop Tokyo実行委員会が主催したイベント「Interop Tokyo 2026」(6月10〜12日開催)の講演セッションから「敵を知る―日本人視点でイラン戦争のサイバー戦を読み解く」を取材したもの。
中東紛争の“サイバー戦” 「祈祷時間管理アプリ」改ざんなど民間も標的に
2月28日、米国とイスラエルによるイランへの攻撃が始まった。増田氏は、空爆と並行して展開されたサイバー攻撃に注目する。ミサイル攻撃が始まってから、イランのニュースサイトが改ざんされ、インターネットが遮断された。携帯電話の通話も使えなくなったという。
象徴的な出来事が「祈祷(きとう)時間管理アプリ」の改ざんだ。1日5回の礼拝時間を管理するこのアプリは、イラン国内で500万回以上ダウンロードされているという。最初の爆発からわずか数分後、このアプリのプッシュ通知を通じて「助けが来た」というメッセージが届いた。「いま飛んでいるミサイルやドローンはあなたたちを助けるものだ」「戦闘を放棄する者は救われる」と投降を促す内容だったとされている。
増田氏は「一つ一つを見れば、民間のWebサイトやアプリが改ざんされただけの、単なるサイバー犯罪だ。しかし流れとして捉えれば、完全に国家の安全保障を脅かす攻撃であることが分かる」と指摘する。
米サイバー部隊がAnthropicのAI「Claude」を利用
「サイバー」の位置付けそのものも変わりつつある。米国がイランの軍事施設に地中貫通爆弾(バンカーバスター)を投下した背景には、米軍のサイバー部隊が事前にイランの防空設備へのハッキングに成功していた、という報道がある。同作戦を指揮したウィリアム・ハートマン米陸軍中将は、サイバー能力について「陸海空に準ずる付加的な攻撃力ではなく、完全に同等のものとして扱う段階に到達した」との認識を示した。
対サイバー能力の中核を担うのが、データ分析プラットフォーム企業の米Palantir Technologiesが提供する指揮統制システム「Maven Smart System」だ。衛星画像や位置情報など150以上の情報源から得られるデータを統合・解析するシステムで、その分析には米AnthropicのAI「Claude」が使われているという。これにより従来は約2000人の解析者が12時間かけていた標的の特定を、わずか20人かつ1分未満で行えるようになった。
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