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大谷翔平の熱狂を「事業アセット」に MLBが仕掛ける「データ経営」の正体(1/2 ページ)

単なるスポンサービジネスの枠を超え、スポーツ経済圏を企業成長の原動力に昇華させるファン拡大戦略の本質とは。MLBグローバルコーポレートパートナーシップ アジアディレクターの十原啓志郎氏に、激変するグローバルパートナーシップの最前線とその勝算を聞いた。

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 大谷翔平選手をはじめとする日本人選手の活躍によって、MLB(メジャーリーグベースボール)は日本でかつてない注目を集めている。

 ビジネスの視点で見れば、特定の選手を超えた長期的なファンエンゲージメントの維持は、あらゆるグローバルスポーツIP(知的財産)にとって重要な目標だ。MLBは、スタジアムの看板広告やロゴ露出を販売する「従来の広告ビジネス」から脱却しようとしている。

 MLBは、大谷という強力な入り口を生かしつつ、スポンサーシップというビジネス手法を、企業の経営課題を解決する「事業成長アセット」へと変えようとしているのだ。大谷の記録と連動した伊藤園のグローバル展開もその一つである(【大谷翔平効果で「お〜いお茶」販売数量9%増 伊藤園副社長に聞く海外戦略】参照)。

 スポンサー企業のビジネス成長や戦略にまで、パートナーとして深く踏み込む手法を取っているのだ。

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全63本のデザイン「お〜いお茶 大谷翔平ホームランボトル」(以下、プレスリリースおよび提供写真)

 さらに、米国との時差で「日本への生中継が早朝から昼になる」というハンディキャップを逆手に取り、朝食時の新たな観戦文化を提案する「MLB Breakfast Club」(MLBブレックファストクラブ)を展開。リアルな体験とデジタル接点を組み合わせ、ファンの日常のルーティンに入り込むアプローチを進めている

 その背景には、主要なデジタルプラットフォームや映像制作を内製化し、米国のIT大手に伍するレベルの顧客行動データを一元管理するMLBの戦略がある。

 単なるスポンサービジネスの枠を超え、スポーツ経済圏を企業成長の原動力に昇華させるファン拡大戦略とは? MLBグローバルコーポレートパートナーシップ アジアディレクターの十原啓志郎氏に、グローバルパートナーシップの最前線と勝算を聞いた。

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十原啓志郎(じゅうばる・けいしろう) MLBグローバルコーポレートパートナーシップ アジアディレクター。NPB千葉ロッテマリーンズでスポンサー営業、FOXネットワークス(現ウォルト・ディズニー・ジャパン)でメディア営業に従事し、FOX Sportsジャパンの立ち上げにも貢献する。2012年シーズンからMLBに在籍し14年の経験を持つ。現在は、アジアのディレクターとして、アジア企業を中心にMLBの国際的パートナーシップを推進。日本開催のMLB東京シリーズやWorld Baseball Classicをはじめ、複数の公式リーグパートナーシップの構築にも携わる

看板広告の終わり 単発の露出から「事業成長アセット」への転換

 伊藤園とのコラボレーションは、ここ数年「大谷翔平ボトル」で注目を集めてきた。しかし今年の取り組みは、単なる選手起用の販促施策とは一線を画す。ファンが、大谷翔平選手の活躍や記録を振り返りながら楽しめる体験型企画を展開している。

 十原氏は「ファンの皆さんにどう感じていただけるか。その部分では、(従来の販促施策とは)刺さり方も違います」と話す。背景には、MLBがスポンサーシップそのものの定義を書き換えようとする戦略がある。

 従来のスポーツスポンサーシップは、スタジアム看板やロゴ掲出など「露出」を販売する権利ビジネスが中心だった。一方MLBが企業に提供しようとしているのは、単なる広告枠にとどまらない。企業が抱える経営課題を解決するための事業成長アセットなのだ。

 十原氏は「企業が抱えている課題に対して、MLBが協力することによって解決につながるソリューションを提供している」と説明する。

 実際、伊藤園との取り組みも、日本国内だけでは完結していない。米国市場においても「Green Tea=伊藤園」というブランド認知を高めるため、MLB本部や現地チームと継続的に議論を重ねながら施策を展開している。注目すべきは、MLBがパートナー企業の「数」を追い求めていない点だ。

 「数を増やすよりは、親和性が高く、ビジョンとして共鳴するパートナーとのお付き合いを目指しています。パートナーとの取り組みを、いかにして長く太く続けていくか。これが大事だと考えています」(十原氏)

 MLBは、リーグとパートナー企業が目標を共有し、ビジネス成長につながるマーケティングソリューションを、共に構築する長期的なパートナーシップを重視している。この姿勢は日本市場だけでなく、世界共通の方針だ。MLBの幅広いパートナーシップ戦略を体現している。

 その理由は明確だ。試合のハイライトやシーズン中の盛り上がりだけではなく、企業との共同施策を通じて1年中、ファンとの接点を生み出せるからだ。

 MLBにとって重要なのは、試合そのものを売ることではない。大谷翔平選手などをきっかけに、MLBへの高い注目度を入り口として活用すること。そして、年間を通じてファンとの接触機会を増やし、MLB全体への関心と熱量に転換していくことなのだ。

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大谷翔平選手のホームランの数に合わせたデザインボトル。その時の感動を再現できるラベルとなっている(プレスリリースより)

時差という「課題」を「強み」に MLBブレックファストクラブとは?

 日本市場におけるMLBの課題の一つが時差だ。米国で開催する試合は、日本時間では早朝から昼にかけて行われることが多い。野球観戦といえば、夜にビールを飲みながら楽しむものという文化が根付く日本において、この時差は長らくハンディキャップだった。

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MLBブレックファストクラブのメニュー

 MLBはこの弱みを、強みに変えようとしている。その象徴がMLBブレックファストクラブだ。「夜にビールを飲みながら野球を見る」という従来の観戦シーンに代えて「朝食にコーヒーを飲みながらMLBを楽しむ」という新しいライフスタイルを提案した。東京・虎ノ門ヒルズでのカフェ貸し切りイベントを皮切りに、福岡など複数都市でのキャラバンを展開している。

 狙いは単なるライブビューイングではない。朝のルーティンの中にMLBを組み込むことで、新たな観戦文化を定着させることにある。

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7月1〜26日には福岡の中心地・天神に位置するONE FUKUOKA BLDGでMLBの試合を放映。日本唯一のMLB公認レストラン「MLB cafe FUKUOKA」によるフードトラックも出店中だ

 さらに、ファンが求めるコンテンツの種類に合わせた日常的なデジタル接点の整備も進めている。これまで十分ではなかったWebサイト「MLB.com」の日本語対応を強化。日本語版YouTubeチャンネルも運営している。

 テレビ、デジタルコンテンツ、リアルな体験を組み合わせることで、MLBはファンのエンゲージメントを深め、MLB全体への関心を広げる複合的な接点を構築しているのだ。

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日本語版YouTubeチャンネルも運営している

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