AI推進にブレーキ? AWS「コスト抑制の動きある」 “トークン消費問題”への有効策は
AI利用を巡って、処理コストを抑えようとする動きが出てきている。AWSも把握しているという“トークンコスト問題”について、対策を聞いた。
企業はこれまで、もろ手を挙げて「AI活用」を推進してきた。しかし、その勢いに陰りが生じている、という指摘がある。「AIの利用コスト」を無視できなくなり、野放図に使うわけにいかなくなったというのだ。
生成AIサービスの利用料金は、AIの処理量を指す単位「トークン」で表されることが多い。米OpenAIのAIモデルをAPIを介して使う場合、英語での目安は「1トークン=約4文字」「100トークン=約1段落」だ(7月6日時点)。テキストの入出力で価格が異なり、同社のAIモデル「GPT-5.5」は100万トークン当たり、入力時が5ドル、出力時が30ドルの価格設定になっている(同時点)。
数ドルなら安価に感じるが「全社員がAIに長文を生成させる」「数万行のプログラミングコードをAIに書かせる」「自社サービスに組み込んだAIが常に動作している」といった使い方をすると、あっという間にトークン消費量が積み上がる。「AIエージェント」など高度な処理ほどトークンを消費するため“トークンコスト問題”の議論は避けられないとみられる。
米Amazonによると、生成AI基盤サービス「Amazon Bedrock」において「第1四半期(1〜3月)に処理されたトークン数が、過去全期間の合計を上回り、顧客支出額は前四半期比で170%増加した」という。
企業はトークンの消費コストにどう向き合うべきか。米Amazon Web Services(AWS)の日本法人幹部が、取材に答えた。
AWS「AIコスト抑制の動きある」 “トークン消費問題”への対策は?
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS Japan)は、同社の年次イベント「AWS Summit Japan 2026」(6月25〜26日開催)において、同社幹部や技術陣が記者の質問に答える「Q&Aセッション」を開いた。そこでの回答を紹介する。
技術統括本部長「トークン消費をコストと捉えて抑制する動き」
AWS Japanの瀧澤与一氏(執行役員 パブリックセクター 技術統括本部長)は、トークンの消費量だけでなく、成果にも目を配る必要があると話した。
AI活用によってトークンの利用が増える中、それをコストと捉えて抑制する動きがあるようだ。AWSとして話を聞くこともある。
一方で、AIによって生産性が向上したり「売り上げ」「利益」などのビジネス指標が改善したという話もよく聞く。
TCO(総所有コスト=初期コスト+運用コスト-残存価値)を意識して、トークンの消費と抑制についてバランスを取らなければならない。AI活用は、経営の判断事項の一つだ。
ある1つのツールのトークン消費量だけをみて「高い」「低い」と議論することが必要なこともある。(コストを抑えて)利益を最大化するという意味では重要だ。
AWSとして、TCOの観点で「そのAIが何を生み出しているか」に着目し、最適なインフラ構成やシステムを提案したい。
これは非常に重要な問題だ。「AIによって生産性や創造性が上がった」という話は多い。AIへの投資なしにリターンは得られない。どのようにしたら顧客のビジネスが成功するのか、AWSとして常に考えたい。
(瀧澤氏)
AWSの一部サービスを刷新 トークンを無制限に利用可能に
AWS Japanの清水崇之氏(技術統括本部 ソーシャルソリューション&サービスグループ本部長)は、AWSとしての対応を説明した。
コンタクトセンター向けサービス「Amazon Connect Customer」(旧Amazon Connect)は、4月にブランドをリニューアルし、トークンを無制限で利用できるようにした(※注:チャット1件で0.01ドル、通話1分で0.038ドルなどの価格設定で、分析や自動化などAI機能は無制限で提供するという)。
これまでは「会話の往復がどれだけ続くか」「相手の回答が完了するまでにどれだけ時間がかかるか」など、トークン消費につながる部分を予測できなかった。Amazon Connect Customerは、会話の往復回数に上限を設定して、AIの生成を抑えるなどコストを予測可能な形にできる。
このように、コストを高めずに使えるサービスがAWSに登場している。
(清水氏)
トークンコスト課題視する企業の対策は?
AWS Japanの巨勢泰宏氏(常務執行役員 技術統括本部長)は、企業がAIモデルを使い分ける可能性に言及した。
トークン数が増えていることを課題視する企業は、実際に増えていると思う。AIを使いこなしているほど、その課題感は強い。
そうした企業が対策の一つとして考えているのが「オープンウェイトモデル」(※注:誰でも使えるよう公開されているAIモデル)の活用だ。
1つのAIモデルで全てを解決するのではなく、事業課題に対していろいろなAIモデルを使いこなす。精度、性能、コストの間で適切にバランスを取ろうとするケースが増えている。
先端モデルだけでなく、オープンウェイトモデルの事例が日本でもたくさん出てくることを期待している。
(巨勢氏)
米Amazonが4月29日(現地時間)に発表した決算によると、2026年第1四半期(1月〜3月期)におけるAWS事業の売上高は約375億ドルで、前年同期比28%増だった。過去15四半期で最大の成長率だという。生成AI需要の拡大が、売り上げを後押ししたとみられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
AI投資の「思わぬコスト」──企業が見落としがちな財務負担とは
「AIはもはや実験段階ではなく、実際に売上総利益率に影響している。そして大半の企業はその影響を予測すらできていない」と、SaaSの業績指標を提供する米Benchmarkitのレイ・ライクCEOは述べる。- 「給与は10万ドル、トークンは使い放題」 NVIDIAフアンCEOが予言した、AIが“人件費”になる日
日本企業は中国製AIの利用に慎重だとされる。しかしその間にも、企業によるAI活用の現場では大きな変化が進行している。性能面では依然として米国のクローズドモデルが上位を占めるものの、実際の利用量では中国発のオープンモデルが急速に存在感を高めている。
AIのコストが経営テーマに NVIDIAが狙う“推論の王国”と継続課金型の帝国
米NVIDIAが推論の王国を拡大している。推論とは、学習済みのAIが実際に動き、利用者の質問に答えたり、企業の業務を処理したりする段階を指す。つまり、企業が日常的にお金を払いながら使うAIである。
月28本の記事“量産”で記者が見たもの AIを使って勝つ企業・勝てない企業を分ける「競争軸」とは?
生成AIの導入競争が激しさを増している。トークン消費量、エージェント数、AIが書いたコードの割合。企業はこぞって「どれだけAIを使っているか」を競い始めた。しかし、その競争はどこか本質から外れている。
「AIを使うと他社と似てしまう」課題をどう乗り越える? 「プロダクトの差別化」の要点
生成AIの普及は製品の没個性化や、個人の生産性向上によるチームの分断という課題を生んでいる。米Figmaはカンファレンスで、AI出力を人間が微調整する「素材」として扱う手法を提示。自社ルールを組織全体で共有する仕組みを実装した。個人の暗黙知を資産化する取り組みは、現場の属人化を防ぐだけでなく、無駄なAIコストを最大30%削減し価値創造を支えるものだ。




