AIが破壊するIT業界の“人月商売” 「SIerの死」後に“生き残る者”の正体(4/6 ページ)
米Anthropicの機能発表で約8300億ドルの時価総額が消し飛んだ「AIショック」。画面の使いやすさで稼いできたSaaSや、時間と人数を積み上げるSIerの「人月商売」が崩壊の危機に直面している。だが、業界ルールにのっとった複雑な計算(ビジネスロジック)を握る企業は依然として強い。真の構造変化はどこで起きているのか。AIに仕事を任せるための「安全管理」の難所と、「現場派遣型エンジニア」(FDE)の正体に迫る。
人月商売が削られる「中規模市場」 古いシステムとの決定的な差
では、SIerの事業はどこから変化が起きるのか。
伊藤氏が「リアルに空いているスペース」と呼ぶのが、中規模企業向けのシステム市場だ。SaaSの標準機能では要件に届かず、かといって大手SIerに基幹システムを発注する予算もない帯である。
Finatext自身が、この帯の当事者だという。金融関連のライセンス(免許)を持つ子会社が8社あり、人の兼務や異動で組織は複雑ではあるものの、会社の規模はそこまで大きくない。要件を満たすERP(企業資源計画)を入れようとすれば「立ち上げに3億〜4億円」と言われ、断念したという。安価なSaaSを組み合わせ、APIを自前でつないで「無理やりねじ込む」対応を続けてきた。
国内でこの帯に強いのは、オービックやワークスアプリケーションズに代表される業務パッケージベンダーだ。蓄積したカスタマイズ資産の横展開によって、SaaSが届かない個別要件に応えてきた。
この帯で求められるカスタマイズの中身は、実は会計ロジックそのものではない。伊藤氏によれば、例えば「複数の子会社に所属する従業員がどちらの会社でも申請できるようにしたい」「出力するPDFを自社のフォーマットに合わせたい」といった“ビジネスロジックとは関係ない”周辺の要望が積み重なって、カスタマイズの需要になっているという。ネックはコードを書く工数だっただけに、AI駆動開発とAIエージェントの双方でコストが崩れれば、対応できるプレーヤーは一気に広がる。
そのとき効いてくるのが、アーキテクチャ(システム設計)の世代差だ。インターネット上のクラウド時代に基幹システムを作り直してきた「第2世代」では、システム全体の機能を小分けにして独立させ、部分ごとに安全管理を行う手法が標準になっている。これならAIに対して「このデータだけを触りなさい」と制限をかけた上で作業を渡せる。30年前に作られたシステムには、こうしたノウハウがない。
「今の瞬間の技術力というより、今までの技術の差や始めたタイミングの差で、(これからの勝負が)決まってしまう」(伊藤氏)
超大手SIerにしか手が出なかったエンタープライズの個別対応に、規模の小さいソフトウェア会社が入っていける。SoRの参入障壁は残る。崩れるのは、その周りを固めていた個別対応の壁だというわけだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「SaaSの死」への反撃シナリオ Anthropicショックを覆すIBMの「4つの武器」
ボストンで開催されたIBMの顧客イベント「Think Boston 2026」。会場の熱気とは裏腹に、同社はかつてない逆風にさらされていた。米Anthropic「Claude Mythos」は、メインフレームの脆弱性を容易に特定し、IBMの牙城を揺るがしかねないとの見方が広がったからだ。「SaaSの死」という言葉が飛び交い、IBMの株価は30%近く急落した。この「Anthropicショック」に対し、IBMはどう立ち向かうのか。レガシーをAI時代の資産へと変える「4つの武器」と、反撃に向けた逆転のシナリオを現地から詳報する。
「SaaSが終わる? 興味ない」 ラクス社長が語るAIの「真の脅威」
国内SaaS業界トップランナーのラクス。「SaaSが死ぬかどうかってそんなに興味ない」と明かす中村崇則社長が、本当に恐れているものとは何なのか。業界トップが明かすAI時代の生存戦略を聞いた。
欧州家電市場から脱落する日本メーカー──主役は韓国・中国製に
欧州最大の家電・IT見本市「IFA」。現地を取材したIT分野の調査・コンサルティング会社、MM総研の関口和一代表取締役所長がレポートする。
孫正義の「AI革命構想」と経営者へのメッセージ 日本企業に“最後のチャンス”
ソフトバンクグループ株主総会での孫正義氏の発言から、ASI時代を勝ち抜くために企業に求められる判断力と実行力を読み解く。
メドレー社長に聞く「根回し不要」「ハイパフォーマーを集め、生かす」組織の作り方
医療ベンチャー・メドレーの瀧口浩平社長に、優秀な人材を集め、その能力を最大限発揮できる環境をいかにして整えているのかを聞いた。
「日本なくしてNVIDIAはなかった」 フアンCEOが語った真意は?
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは都内で主催した自社イベントで「日本はこれまでテクノロジーの分野で遅れていたが、AIを活用すればリセットできる」と話した。「日本なくしてNVIDIAはなかった」と語る真意は?
