「AI作成のスライド」で発表する役員になんとなくモヤモヤするワケ:「キレイごとナシ」のマネジメント論(3/4 ページ)
これからの時代、上司や経営陣がAIでそれらしい資料を作り、得意げに披露する場面は増えていくはずだ。そのとき部下が感じる「言葉の軽さ」の正体を、見過ごしてはいけない。
人は「労力」を評価してしまう生き物である
なぜ、人はここまで熱量の有無に敏感なのか。理由は単純だ。よくも悪くも、人間はそこに費やされた労力を評価してしまう生き物だからである。
残業している人を見ると「頑張っているな」と感じる。休日出勤している人を見ると、つい「偉い」と思ってしまう。営業でも同じだ。メールで済む話でも、わざわざ訪ねてくれると、
「売込みだとは分かってる。だけど、せっかくだから、会って話を聞いてやるか」
こう思ってしまうもの。営業がかけた労力を無下(むげ)にするのが気が引けるからだ。これは合理的な判断ではない。しかし、人間はそういう仕組みで感情が動く。だからこそ、AIが瞬時に処理した言葉には、“熱”を感じにくいのだ。
部下が議論した内容を自分で記録し、頭を悩ませて整理し、自分の言葉でリライトする。そのプロセスを経た資料は、少しぐらい文章や図解が下手でも、その労苦がにじみ出る。だから人はついていきたいと思えるのだ。
たとえ実際には、AIを使いこなして苦労して作った資料であったとしても、そのプロセスが見えなければ、聞き手には伝わらない。
なぜか? そこに「腹落ち」がないからだ。
リーダーに必要なのは「腹落ちする物語」
現代は「VUCA」の時代と言われて久しい。
VUCAとは、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性という4つの頭文字を取った言葉だ。こういう時代ほど、正確な分析よりも、全員が納得できる答えを導き、行動に移すことが重要だ。
この考え方を、経営学では「センスメイキング理論」と呼ぶ。日本では早稲田大学大学院の入山章栄教授がこの理論に注目し、その本質を「腹落ち」という言葉で表現した。絶対的な正解を突き詰めるのではなく、みんなが納得できる意味づけを作り出すこと。そうすることで、正解のない状況でも前に進む力を生み出す考え方だ。
つまり、データやロジックだけでなく、共感や物語の力で組織を動かすということである。そうしないと、誰も「腹落ち」しないのだ。
このセンスメイキング理論を象徴する逸話がある。ハンガリー軍の偵察部隊が、アルプス山脈で猛吹雪に遭った。テントの中で死を覚悟していたとき、隊員の一人がポケットから地図を見つけた。
「これで帰れる」
全員が大いに喜んだ。そしてその地図を頼りに、試行錯誤を繰り返しながら少しずつ前進し、無事に下山できたのだという。
しかし後になって分かったことがある。その地図は、アルプス山脈ではなく、全く別のピレネー山脈のものだったのだ。
地図が正確かどうかは、実は関係なかった。「もっともらしい」と全員が信じたこと――この「腹落ち」が、彼らを奮い立たせ、無事に下山させたのである。
冒頭のスライドに欠けていたのは、まさにこれだ。スライドに書いてあった言葉、つまり
「属人性の排除や意識改革」
「チームワークやシナジーの最大化」
これらの考え方自体は、重要な内容である。
しかし「なぜこの方針でなくてはならないのか」「自分はどう考えてこれを選んだのか」という苦労――物語が見えない。だから聞き手の心に「腹落ち」がなかったのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
書類でよく見る「シヤチハタ不可」、シヤチハタ社長に「実際どう思ってますか?」と聞いたら意外すぎる答えが返ってきた
ハンコで国内トップメーカーのシヤチハタが、2025年に創業100周年を迎える。気になっていた質問をぶつけてみた。インタビュー後編。
「あの時気付いていれば……」 モンスター社員を面接で見抜く、たった一つの重要質問
彼らは「嘘をついている」わけではない。ゆがんだレンズを通して世界を見ているため、彼らにとって「正しいこと=周囲が悪であること」という構図は、疑いようのない真実として映っているのだ。
「3年8カ月の育休中に資格乱獲」大バズりの裏で起きた炎上 なぜ他人の“完璧な育休”にモヤモヤするのか
この投稿の内容は個別の家庭事情の話であり、そもそも真偽さえ分からない。それでもなぜ、このポストが一部ユーザーの逆鱗に触れて大炎上したのか。その要因の一つに、現代の労働環境が抱える根深い不満と構造的な歪みが潜んでいる。
部下に「仕事は終わってないですが定時なので帰ります」と言われたら、どう答える?
企業にとって残業しない・させない文化の定着は不可欠だ。しかし――。
仕事が遅い部下に“あるテクニック”を教えたら、「チーム全体の残業時間」が3割減ったワケ
仕事の効率化や部下育成に悩む上司やリーダーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
