2015年7月27日以前の記事
検索
インタビュー

Anthropicと組んだNEC それでも森田社長が「4つの主権」にこだわる真意(1/2 ページ)

米Anthropicとわずか3週間で電撃提携し、日本企業初のパートナーとなったNEC。最新AI「Mythos」が誇るバグ発見能力を巡り、サイバー悪用のリスクへ各国の懸念が高まる中、いかにして「実装」の壁を越え、自らを守るのか。森田隆之社長が語る「4つの主権(ソブリン)」の真意と、AI時代の防衛線と世界戦略の核心を明かす。

Share
Tweet
LINE
Hatena
-

 NECは4月、米AI企業Anthropic(アンソロピック)とグローバルパートナーシップを結んだ。日本企業として初めてAnthropicのグローバルパートナーとなり、生成AI「Claude」(クロード)を活用した業種別のAIソリューション開発や、NECグループへのClaude展開を進めている。

 Claudeを社内利用の標準機軸(ベース)に据えて「AIネイティブカンパニー」への脱皮を急ぐNEC。その裏側では、最新AIモデル「Claude Mythos」(クロード ミュトス、以下「Mythos」)が持つ驚異的な脆弱(ぜいじゃく)性発見能力の悪用リスクを巡り、世界中の政府機関が警戒を強めている。

 テクノロジーが進化する中で、NECはセキュリティをどう実装し、データ主権を守り抜くのか。【NEC森田社長が語る「脱・人月商売」の行方 組織の壁を破るAI人材育成法】に続く今回の記事では、英ロンドンにおけるAnthropicとの直接交渉からわずか3週間で合意を取り付けた舞台裏と、NECの森田隆之社長が明かす「4つの主権」(ソブリン)の真意を聞いた。


森田隆之(もりた・たかゆき)1983年にNECに入社、2002年に事業開発部長、2011年に執行役員常務、2018年に副社長、2021年4月に社長に就任。6年間の米国勤務や2011年からの7年間の海外事業責任者としての経験も含め、海外事業に長期間携わってきたほか、M&Aなどの事業ポートフォリオの変革案件を数多く手掛け、半導体事業の再編や、PC事業における合弁会社設立、コンサルティング会社の買収などを主導した。66歳。大阪府出身(2025年12月撮影:河嶌太郎)

仕事の在り方が一変 森田社長が語る「AIネイティブ」の真意

――中期経営計画(中計)の発表会では、AI産業革命の時代には自ら変革し、AIネイティブカンパニーを目指すとの説明がありました。AIネイティブカンパニーを一言で定義すると、どんな会社でしょうか。どのような将来像をイメージしていますか。

 一言で表すのは難しいのですが「(ビジネスのやり方や、業務における意思決定の)プロセスそのものが変わる」と考えています。教育や仕事の在り方、時間の使い方も含めて全てが変わってくるでしょう。

 AIネイティブカンパニーを目指すということは、そういった新しい価値観や産業構造を理解した組織や会社になっていくという意味です。

 将来像はまだ全てが見えているわけではありませんが、新しい価値観へのシフトは確実に起こります。例えば、過去の産業革命によって移動が自由になり、観光業が生まれたように、今までとは違う新たな産業が現れます。NECも、そのような新産業に関わっていきたいと考えています。

――Anthropicとのグローバルパートナー提携の背景について教えてください。また、日本企業では日立製作所や富士通もAnthropicと提携している中で、NECのパートナーとしての位置付けはどのようになるのか、長期的な提携の在り方についても展望があればお聞かせください。

 Anthropicと他社との関係性については、私がコメントする立場にありません。われわれは発表の通り、Anthropicの本社とグローバルなフレームワークの中での戦略的パートナーシップを結んでいます。これにはセキュリティを含めた先端技術の継続的な協力関係が含まれています。

 今後、われわれが力を入れていく産業別の特化型AIの開発についても、Anthropicと連携していくことになりました。そのため、他社がどのようなパートナーシップを結ぶのかについては、やはりその会社に聞いていただくのがよいと考えています。

 今後の展望や提携の将来像については、最新モデルも含めて、AIモデルそのものは、実際にわれわれがさまざまな業界のAI化を進める際に、その都度(顧客に)適したモデルを選択して使用していく方針です。自社開発の「cotomi」も含め、必要なときには複数のモデルを自在に使い分けることで、トークン(データ単位)当たりのコストとアウトプットを最適化できる形で提供していきます。

 例えばサービスによっては、最先端の巨大モデルではなく、より軽量なモデルをベースにしてファインチューニング(追加学習)を施した方が、効率的かつ効果的に機能するケースも出てきます。

 一方、社内でのソフトウェア開発やコーディングを含め、われわれ自身が内部的に利用するものについては、ある程度の標準化が必要です。現状、社内利用のベースにはClaudeを据えており、他のAIを併用するにしても、一定の標準化を進めていく経営判断をしています。

――Anthropicとの提携交渉を担当した吉崎敏文副社長は、4月のロンドンでの直接交渉を経て、わずか3週間というスピードで合意に至ったと明かしています。森田社長は、Anthropicの意思決定の速さについて、同じような印象をお持ちでしょうか。また、NECとして同等のスピード感を目指す上で、Anthropicの組織の在り方から学べることがあれば教えてください。

 Anthropicに限らず、グローバルトップの企業は意思決定のスピードが非常に速いです。トップ自らが動いてスピーディーに決断していくため、われわれもそのスピード感に合わせた動きをしなければなりませんし、それはNECでも十分に可能だと確信しています。また、世界は意外と小さく、こうしたイノベーションの中核的な人脈(インナーサークル)に日本企業としてしっかり入ることが極めて重要です。

 今回、ポール・スミスCCO(最高事業責任者)のミーティングの進め方や、ミーティング後のコミュニケーションは非常にスピーディーで気持ちの良いものでした。日本企業もやろうと思えばできるはずですし、実際にそのように動こうとしている国内企業も増えていると感じています。

「脆弱性を見つけるだけでは不十分」 対策と“実装”がカギ

――AnthropicのMythosについて、日本企業のアクセス権の取得が注目されていますが、森田社長はMythosについてどのようにお考えでしょうか。NECにとってMythosへのアクセスは必要とお考えか、その点についてもお聞かせください。

 まず、最新のAIモデルによってセキュリティ上の欠陥を見つけられるということ自体は、AnthropicのMythosや「Claude Opus」に限らず、米Googleの「Gemini」や米OpenAIのモデルも含めて共通して備わっている能力です。その中でMythosがこれほど注目されている理由は、かなり早い段階から、これまで発見できなかったさまざまなセキュリティの脆弱性や欠陥を特定し、公表してきたからだと考えています。

 その意味で、こうしたフロンティアモデルをセキュリティの観点で継続的に活用していくことは、今後必須になると確信しています。 

 また、既に一部の金融機関やテクノロジー企業など、重要な課題に直面しうる分野の企業にアクセスが認められています。これはMythosに限らず、生成AIの最先端モデルをセキュリティに活用していく上で、どの国、どの領域においても必要になってくるプロセスです。

 ただ実際には、そうした脆弱性発見ツールやAIモデルにアクセスできるだけでは不十分です。そこで見つかった課題の中から、本当に手当てすべきセキュリティ上の問題をきちんと特定し、対策を講じ、実際のシステムへ「実装」していくことが重要であり、そこまでやり遂げて初めて意味のある対応になります。テクノロジー企業やソフトウェア企業が対策を検討するだけでなく、現場でいかに「実装」していくかが求められています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る