「給料、自分で決めていいよ」 組織図も稟議もない老舗石鹸メーカーが、管理ナシで成果を出せる理由(1/3 ページ)
社員が自ら希望する給与額を会社に提示する――。そんな「自己申告型給与制度」を導入する老舗メーカーがある。組織図も職種定義書もなく、それでも高い生産性を維持する木村石鹸工業の組織づくりから、人事評価の新たなヒントを探る。
もし、来年の給料を“自分で決めていい”と会社から言われたら……。読者の皆さんは、どのように自身の給与を決定するだろうか。
1924年創業の老舗石鹸メーカー、木村石鹸工業(大阪府八尾市)では、社員が自ら希望する給与額を提示する「自己申告型給与制度」を導入している。
「適切な人事評価制度をどう構築するか」は、多くの経営者や人事担当者が頭を悩ませる課題だ。さまざまな職種、役職の人々を適切に評価するために、360度評価を導入したり評価者訓練を重ねたりと、模索を続けている企業も少なくない。
自己申告型給与制度の導入によって、木村石鹸工業はそうした「他者が評価する仕組み」を手放した。
驚くべきことに、同社には組織図もなければ、職種定義書や稟議申請もない。それにもかかわらず、日々異なる製品を製造する複雑な現場は、指示命令なしで自律的に動き、高い生産性を維持している。
「自己申告型給与制度は、私たちが目指す『自律型組織』を実現するための仕組みです」
そう話すのは、4代目社長の木村祥一郎氏だ。
社員はどのように自らの給与を決めているのか。そして、企業側は社員の給与設定の妥当性について、どのように判断しているのか。制度導入から6年がたった今、同社ではさまざまな変化が起きたという。管理やルールを排除した組織がどのように機能しているのか、木村社長に聞いた。
本稿は、大阪府八尾市の中小企業が連携し、地域産業の振興、地域活性化を目指して運営する団体「みせるばやお」が7月14日に開催したセミナー「『人を信じる会社は強い』〜自己申告型給与制度から学ぶ、これからの組織づくり〜」を取材したもの。
社員が給料を「自分で決める」制度、なぜ成立する?
自己申告型給与制度のみが注目されがちだが、制度だけ導入してもうまく運用することは難しい。なぜならこの制度は、背景にある組織の考え方や企業風土と切り離せないからだ。
木村社長が組織づくりの前提として重要視しているのが、ベースを「心配」から「信頼」へとシフトすることだ。
「世の中の多くの組織は、ベースに『心配』があるのではないでしょうか。ルールがないと社員がサボるのではないか、マネジメントがしっかり機能しなければパフォーマンスが上がらないのではないか――。そんな心配が前提にあるからこそ、ルールで人をコントロールしようとする発想になります」
木村社長は、会社としての軸足を「信頼」に置くことの重要性を説く。「社員を信頼する」と軸足を定めれば、おのずと不要なルールは削ぎ落とされ、管理コストも激減する。信頼があるからこそ、社員は自律的に動き、それぞれの責任を果たそうとする好循環が生まれるという。
「組織図」も「職種定義書」もない
「信頼」をベースに展開する木村石鹸工業の組織は流動的だ。木村社長は「組織は永遠のベータ版である」と語る。市場環境や社員数など、状況が変われば、組織の最適な形も常に変わるのが自然だからだ。
組織を固定的な構造物として捉えがちな社員の意識を縛らないよう、同社では組織図や職種定義書を作っていない。例えば、ある社員の名刺には「営業マーケティング本部」、別の社員の名刺には「マーケティング部」と書かれている。部署名も各社員が自由に決めているという。
一般的な組織図がない代わりに、同社では「グループ」を設けている。社員は必ずどこかのグループに属しており、各グループには1〜2人のマネジャーがいる。「社員の所属場所――社員にとっての住民票のようなイメージです」
実際の業務では、このグループとは別に、プロジェクトやチームが自由に立ち上がる。プロジェクトやチームは管理されておらず、経営層が把握していない集団もあるという。
管理やマニュアルによる縛りが強いとされがちな工場の製造現場においても、信頼と自律の思想は徹底している。
同社の工場では、日々、異なる製品を製造している。1日に複数品目を各ラインで作ることも珍しくない。工場のホワイトボードには2週間分の製造計画が貼り出されているが、そこでマネジャーが決めるのは「今日、どの製品に対してどのメンバーを割り当てるか」ということだけだ。各ラインで「誰がどの工程を担当するか」という具体的な役割分担は、現場の判断に委ねられている。
製造業の現場では、各社員の担当の持ち場を固定し、時間当たりの作業効率を計測して個人を評価するのが一般的だ。その方が管理しやすく、ミスの原因追究もしやすい。
しかし同社では、ミスが起きても「誰のミスか」を一切問わない。個人の数値を細かく追うこともしない。
「『あなたの担当はここです』と枠をはめてしまうと、人はクリエイティビティを発揮しづらいと考えています。マネジャーが細かく人員配置を決めていたら、一人一人はその役割をこなすだけで『より良くするには』を意識しなくなります。今日、このメンバーで一番パフォーマンスを発揮するにはどうすべきか。現場が自分たちで考え、工夫する方がクリエイティブです」
同社では、ほぼ残業なしで日々の製造計画を完遂し続けているという。現場全員が自分ごととして捉えているからこそ、欠員が出た場合は人員を再配置し、スピードが遅ければ速くする工夫を考えるなど、自発的に助け合っているそうだ。
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