チャット問い合わせ「98%」をAIが無人解決 Zoomが語る「安く・速くさばく」コールセンターの限界(2/2 ページ)
コンタクトセンターでのAI活用が急速に進む。ZoomでCX事業を統括するクリス・モリッシー氏は「これまで重視されてきたのはコスト削減だった。いまは、CXをどう戦略的な差別化要因にするかへ考え方が移っている」と、市場の変化を指摘する。
AI、チャット、電話……「サイロ化」ではジャーニーを把握できない
新しいKPIには実務上の難所がある。「顧客側の労力」は、個々のチャネル単体では測れないという点だ。
モリッシー氏が挙げた例はこうだ。
顧客がまず音声のバーチャルエージェントに電話し、5分話しても解決せず、電話を切る。チャットを試しても解決せず、最後に人間のオペレーターにつながり、1分で解決した──。この場合、チャネルごとに分断(サイロ化)した環境で最後の応対だけを見れば「1分で片付いた、顧客の労力が低い良いコール」だったように見える。
「それが分断されたAIの課題だ。統合されたプラットフォームなら、顧客がこれも試した、あれも試したという全体像が見え、実際には労力の大きい問い合わせだったと分かる」とモリッシー氏は話す。個々の応対ではなく、解決までの道のり(ジャーニー)全体を測って初めて、直すべき箇所を特定できるという主張だ。
解決率と顧客労力という評価軸は、電話・チャット・チケット管理を別々のシステムで運用してきた企業には適用しにくい。一括管理できる統合プラットフォームを強みとするZoomにとっては、自社ソリューションへ導くための営業的ロジックという見方もできるだろう。
Zoom社内での成果 「98%がオンライン完結」「顧客満足度25ポイント増」
「Zoomにとって世界最大の顧客はZoomだ」とモリッシー氏。同社が販売する製品は全て自社で使い、サポート窓口にも自社のバーチャルエージェントを置いている。
同社が公表する自社事例によると、チャット経由の問い合わせは98%が有人の関与なしで解決している。顧客満足度(CSAT)は25ポイント改善し、応対を待てずに離脱する率は23%から1%に下がったという。
中でも、請求関連の問い合わせでは、導入から3カ月で、音声問い合わせの30%を人手を介さず処理できるようになった。残る70%は有人へ引き継ぐ。この請求対応だけで、月1000時間超のオペレーター工数が浮いたという。
自動化の比率と満足度が、同時に上がっているというわけだ。
Zoomは自社のサポート窓口で、途中で人間のオペレーターに切り替える選択肢を常に用意している。導入当初は「オペレーターへの切り替えを望む顧客が多かった」と、モリッシー氏は明かす。しかし、現在は必要な助けをすぐ得られるので、人間に切り替える顧客は大きく減ったという。人間の応対を減らして自動化率を上げたのではなく、顧客が自分からAIにとどまるようになった、という説明だ。
人間のオペレーターが応対した際の顧客満足度も上がったという。AIで解決しなかった問い合わせが引き継がれる際、顧客が何を試し、何がだめだったかの経緯を全て可視化しているため、顧客は同じ説明を繰り返さずに済むのだ。
コスト増とサービス品質に対する厳しい目 板挟みの日本企業
国内のコンタクトセンター市場は、2024年度は大型スポット案件の終了で委託市場全体が縮んだが、民間の委託需要とソリューション投資はともに伸びている。コンタクトセンターへの投資は、従来の委託費から「解決率や顧客の労力を測れる基盤」へと移っていくのだろうか。国内市場はその入り口に立っている。
モリッシー氏は、日本市場は「重要な転換点を迎えている」と見る。人材不足とコスト上昇による圧力と、サービス品質への高い期待。この板挟みがAIと自動化への投資を加速させているという見立てだ。ただし複雑な問い合わせでは、人間の専門性が引き続き重要な役割を果たすとも付け加えた。
国内事例として同社が挙げたのが奈良市だ。自治体で初めてZoom Phone、Zoom Contact Center、Zoom Virtual Agentの3製品を統合導入し、2026年3月に庁舎の固定電話を全廃した。コールセンターの直接経費は年間約5000万円の削減見込みだという(※)。
※参照:固定電話全廃から始まる奈良市の自治体変革!トップの決断で実現したZoom導入とAI行政
市民向けのバーチャルエージェントの本稼働は2026年秋以降の予定で、24時間の自動応答はまだ試行段階にある。
なおZoomのコンタクトセンターサービスでは、日本語対応の水準にはまだ濃淡がある。電話の音声AIは、日本の顧客からの音声問い合わせへの対応を開始したばかりで、満足度のデータはまだ明らかになっていない。日本語と英語圏で自己解決率を比べられるデータもないという。
何をKPIとするかを決めるのは、ベンダーではなく発注側である。これまで通り応答時間と処理件数で委託先を管理するのか、それとも解決率と顧客の労力で自社の顧客対応を測り直すのか。人材不足とコスト上昇は、従来型の運営に圧力をかけ続けている。
コンタクトセンターを持つ日本企業は、遠からずこの選択を迫られることになる。
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